インドカレー専門店で焼かれている大きくてほんのり甘いナンって、しっとり美味しいだけじゃなくて見た目の凸凹もカッコいいですよね!
イタリアンのピザも、底がしっかり焼けてて表面の耳の部分がプクッと膨らんで、薄くなったところが所々焦げている感じもまた良いですよね。
きっと、ご家庭で作られている方もあの感じを出したいと思う方も多いのではないでしょうか?
まぁ結論から言うと完全再現は無理だと言えるのですが、それでも限りなく近づける工夫はいくつかあります。
今回は本場のピザとナンがプクッと大きな気泡が膨らむ原理についてと、ご家庭でなるべく再現するための工夫をいくつかご紹介します。
それぞれパン窯ではない特殊な窯で焼かれる
イタリアンで本格的なピザが出てくるお店は、必ず専用のピザ窯が置いてあります。
ピザ窯はピザを焼くことに特化して作られているので、パン窯よりも高温で焼くことができます。
最近は小規模店舗向けに、作業台にも置けるコンパクトなピザ窯が各メーカーから製造されていますが、それでもかなりの性能を持っているため、十分な温度で焼かれています。
また、インドカレー専門店で出されるナンは、「タンドール」という高温の壺のような窯で内壁にぺたっと貼り付けて焼かれます。
ピザとナンの大きな気泡の肝は…温度と形状?!
ピザやナンを焼くんだったら、最初からパン窯を導入してついでに色々なパンを焼いちゃったほうが良くない?って思ったら大間違い。
これら特殊な窯はパン窯より高温で、パン窯はマックスでも300℃ですが、ピザ窯やタンドールは400℃以上で焼くことができます。タンドールは開店直後800℃~1000℃ほどになるものもあるとか。
じゃあ、この温度が生地にどう影響してくるのかというと、皆さんがあこがれる焼き上がりのプクッとした大きな気泡です。
まず、そもそも前提条件として普通のパンと比べてフォルムがとにかく薄いですよね。食パンと比べたらその薄さはもうナン十分のイチとかです。
その分、窯の熱が生地に伝わりやすいのです。仮に同じパン窯で焼いたとしても、食パンは熱が伝わりづらくいつまでたっても中心温度が低いままですが、ピザやナンはすぐに生地の中心部まで熱が伝わります。
つまり、表面が焼き固められる前に生地が高温になれるということ。
生地が高温になると、水分や発酵による炭酸ガスが膨張します。普通のパンは中心まで熱くなったころには表面がある程度焼き固められているので、そこではもう膨らみません。
※例外として、バゲットのクープや食パンのパイル(窯伸びによる側面の裂け目)は、一部のまだ焼き固められていない弱い部分が、内側からの膨らみに耐え切れず裂けることでパン全体が膨らみます。
しかし、ピザとナンは、表面すべてが焼き固められていないので何の制限もなく自由に膨らむことができます。いわば生地の中の炭酸ガスや水蒸気からしたら「完全自由な無法地帯」です。
その中でも、もともと生地に存在していた膨らみやすい部分に集中して、一気に膨らむのです。
(ここで、伸ばし方が悪くて膨らみにくい生地を作ってしまうと気泡は出来にくくなります。こちらの記事で詳しく説明しています)
この原理の恩恵をすでに、形状という一点において得られているわけです。それに加えて窯の温度まで高温になったら、それがより顕著に表れるのも自然な流れですね。
ピザやナンだけでなく、バゲットや食パンも同様に、どれだけ自由に膨らむことができたかが軽い食感になるかどうかに大きな影響を与えますので、この考え方はとても重要です。頭の片隅に入れておきましょう。
高温焼成の本来の目的は、軽い食感を得ること
ここまで、ピザやナンの大きな気泡を生み出すために必要なこと、という触れ込みでご説明してきましたが、本来の目的は軽い食感を得ることにあります。
軽い食感を得るためには、生地には自由に膨らんでもらいたい。
自由に膨らんでもらうには、膨らむ前に表面が固まってしまうことは避けなければならない。
その手段として、気泡を残す成型を心掛けたり、熱伝導の良い形状にしたり、生地に素早く中心まで熱を通すために高温の窯を使用したりするのです。
そして時には、より軽い食感を得るために、焼成時の膨らみをより爆発的にしたい、だから生地の水分量を増やしたりするのです。
そして、それらの副産物として、高温短時間で焼き上げたことにより生地内の水分が保持され、しっとり・もっちりした食感も付いてくるのです。
手段と目的を混同して考えてしまうとドツボにはまって何も解決できなくなります。
自分が今やっている作業の目的は何なのか、それをしっかり認識しながら行うことで、より最適な生地の触り方ができるようになってきます。
これは他のパンにおいても重要な考え方です。
ご家庭で出来る工夫
ナンやピザをカッコよく焼くには、ピザ窯やタンドールが最適なのか…
そうとわかってもやっぱり、ご家庭でもカッコよくおいしく焼きたいですよね。
ご家庭のオーブンで何も工夫しなければ当然再現は出来ませんが、原理を意識して工夫をすればある程度は近づけることができます!
その方法をいくつかご紹介します。
最大温度で十分に予熱する
とにかく表面が焼き固められるまでに、どれだけ温度を生地に伝えられるかが重要ですから、ご家庭にあるオーブンの設定可能な最大温度で予熱をしましょう。
最近の家庭用オーブンレンジはかなり高い温度まで設定できるものが多いので、再現率はだいぶ高いと思われます。
ちなみに現在、オーブンレンジ業界での最高温度が出せるのは東芝の石窯ドームのようです。最高350℃と一昔前では考えられない高温焼成が可能となっています。
天板を事前に予熱する
ご家庭のオーブンレンジでパン作りをされるとき、予熱した庫内にパン生地を載せた天板をそのまま入れる方も多いかとおもいますが、熱伝導率が重要なピザ・ナン・バゲットなどを焼く場合は、天板もしっかり予熱をしておくことをおすすめします。
特にピザとナンは高温短時間で焼きたいもの。なのに、天板が温まったころにはすでに生地の表面ばかり焼けているようでは本末転倒です。
ダンボールなどにオーブンペーパーを敷いてそこに生地を載せておきます。予熱の段階で天板を庫内に入れておき、焼くときになったら天板は庫内に入れたまま、ダンボールから滑らせるようにオーブンペーパーごと生地を天板に載せます。
オーブンレンジ付属の天板は平らではない上にフチがあるため、裏返しで入れておくとやりやすいです。
魔法の天板を使う
私が家でハード系もかっこよくおいしく焼きたいがために購入して以来、ずっと愛用している天板です。
熱伝導率が非常に高い銅の天板を使うことで、業務用オーブンにおける下火を再現できます。
先ほど説明した付属の天板を予熱するやり方でもいいのですが、庫内に生地をスライドさせるときに油断すると火傷します。
その点、この魔法の天板セットなら、事前にステンレス(またはアルミ)板だけ予熱しておいて、焼くときに生地を載せた銅板をそのまま上に載せるだけでいいのでラクだし安全です。
私が購入したときはステンレス板と銅板のセットでしたが、今はより熱伝導率の高いアルミ板と銅板のセットでも購入できるそうです。正直、買い換えたい…
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ただし、ステンレス板はオーブンレンジ付属天板より蓄熱性が良い分、温まるまでの時間もかかりますので、予熱完了のブザーが鳴った後もしばらく予熱を続けた方がいいです。だいたい焼く15分前には予熱開始することをおすすめします。
ある程度発酵させてから焼く
お店のレシピによっては、具材を載せたら即焼成というものもありますが、これだとやはりピザ窯の火力が必要です。
目的はあくまでも軽い食感で、その副産物として大きな気泡ができるのです。
窯の火力というハンデを背負っている以上は、それ以外のところでとにかく火通りを良くする必要があります。
伸ばしたばかりの生地は中身が詰まって火通りがよくありません。ですが、焼く前にある程度発酵させておくことで生地内密度が低くなり、火通りの良い生地になります。
そうすることで、表面が焼き固められるまでに生地の中心まで熱をより伝えることができるようになります。
発酵時間はどんな食感に焼き上げたいか次第ですが、普通のパンのように50分も発酵させてしまうと完全にパンピザ(ナンだともはやフォカッチャ)になってしまうので、短めにしておくことをおすすめします。
いっそフライパンやホットプレートで焼く(ナン限定)
これは私が個人的に好きで思い出のあるものなのですが、ナンをフライパンやホットプレートで焼くこともおすすめします。
薄ーく手で広げるように伸ばして、そのまま温めたフライパンで両面焼くんです。
お望みの大きなプクッと気泡はさほど得られないですが、それでも「こんなに薄く伸ばしたのにここまで膨らむんだ!」と思えるくらいには膨らみますし、何より超短時間で焼きあがります。
その時の火加減やフライパンの温度によって一概には言えませんが、長くても両面5分以内には焼けるはずです。火力を上げればもっと早いです。
とにかく早く焼けるので、しっとり感が保持されたまま焼き上がります。これはぜひ一度試して食べてみてほしいです!完璧にかっこよく焼くことだけが全てじゃないとわかっていただけるはずです。
まとめ
焼成の工夫は、とにかく原理をしっかりと理解することが何よりも大事です。
目的は何なのか?今やっているこの作業は何の目的のための手段なのか?これは目的を達成するために最善の方法なのか?
このように、「そもそも」的発想を心掛ける意識を頭の片隅に入れながらいろいろ工夫してやってみてください!
以上、本場のピザとナンがプクッと大きな気泡が膨らむ原理についてのご紹介でした。
byなおちゃん
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