パンの香りを司る4つの科学的な要素とは?パン生地の焼成と発酵熟成の関係を詳しく解説

こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ

焼きたてパン屋さんから漂う美味しそうなパンの香りをかぐと、なんだか本能的にお店に吸い寄せられる感じがしませんか?

お家でパンを焼かれる際も、焼き上がり直前の部屋の中の香りは幸せですよね。

あのような香ばしさには大きく分けて4つの科学的な要因があります。それを知っておくことで自分がパン作る際にも目指す理想の香りを再現するためのヒントになります。

今回はパンの香りを司る4つの科学的要因について解説します。

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メイラード反応

パン メイラード反応

パンを焼成し始めて、表面の温度が160℃以上になってくるとメイラード反応が急速に進行します。

メイラード反応とはどういったものかというと、

「糖分+アミノ酸➡➡➡メラノイジン(褐色物質)+香り成分」

このように、糖分とアミノ酸が反応してメラノイジンという褐色物質と各種香り成分がが生まれる化学反応です。

メラノイジンがパンの焼き色の元となっており、各種香り成分がパンの香ばしさの元となっています。

パンの場合は小麦粉に元から含まれているアミノ酸が主にメイラード反応で使われます。小麦粉に多く含まれるアミノ酸として挙げられるのは、グルタミン酸・プロリン・グリシン・アスパラギン酸・ロイシン・フェニルアラニン・チロシンなどです。

牛乳や脱脂粉乳が含まれる生地なら乳蛋白由来のリジンも入ってきます。

 

ちなみに色の濃いお味噌の色もメイラード反応によるものです。味噌は加熱されてはいませんが、加熱というのはメイラード反応の必須条件ではなくあくまで急速に進むための条件であり、寝かせておくことでもゆっくりと反応は進むのです。

 

さらに加熱以外にも反応の進み具合にはいくつかの要因があり、生地のpHが5〜5.5だと一番メイラード反応が進みやすいです。

なので、非常に過発酵の生地を焼いたときに焼き色があまりに薄いのは、生地に残存する糖分が発酵で消費されつくしたことに加えて、もしかしたらpHが下がりすぎていることも要因かもしれません。

pHによる焼き色の違いはこちらの実験動画でよくわかります。


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となると、アルカリイオン水で作るパン生地は、焼き色をなるべくつけたくない白焼きパンにも向いているかもしれませんね。

白焼きパンはメイラード反応がほとんど進行していないため、香りの主な要因は発酵で生成されたアルコールや有機酸などによるものと素材そのものの香りです。

 

カラメル化

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パンの焼成では200℃以上の高温を使うことが多いですが、生地表面の温度が185℃を超えてくるとカラメル化が起こります

どのような反応かというと、加熱により糖が水分を失う過程において、分解・結合など様々な反応が生じて、褐色物質や苦味物質、香り成分など様々な成分生成されることです。この反応は先程のメイラード反応とは異なり糖分単体で起こるものです。

そして、パンの場合はメイラード反応とカラメル化が同時に起こることで、より複雑なフレーバーが完成します。

他にもコーヒーやビールなども両方の反応が起こっているようです。

 

発酵熟成フレーバー

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発酵によるフレーバーもパン独特の香ばしさには欠かせません。

もちろん、無発酵の小麦粉食品にも素材本来のフレッシュな風味という代え難い良さがあります。

しかし「発酵いらずの時短パン♪」といったレシピを試して、イメージと違くてガッカリしたことがある方も多いのではないでしょうか?

それだけ発酵による香り成分というのはパンの風味に大きく貢献しているというわけです。

 

イーストで作るパンの場合はアルコールが多くを占めていますが、ごく微量のイーストで作るパンや自家製酵母パンなど、ゆっくり発酵熟成させるパンほど乳酸菌や酢酸菌など酵母菌以外の菌の活躍が期待でき、有機酸やエステル、アルデヒド、ケトン類といった多種多様な香り成分が多くなります。

それにより、非常に奥行きのある複雑で香ばしいフレーバーとなります。

 

さらに、じっくり熟成させて作ったパンは、アミノ酸含有率が通常のパンよりも高いです。

小麦粉やモルト(注1)に含まれるたんぱく質分解酵素が小麦粉のたんぱく質をアミノ酸へと分解するのですが、この反応は通常の多イーストでのパン作りだとアミノ酸を大量に生成されるのを待っている間に過発酵になるためあまり期待が出来ないのです。

先ほどメイラード反応でアミノ酸が必要と解説しましたが、つまり熟成が深くアミノ酸が多い生地はメイラード反応においても有利と言えるわけです。

 

じっくりゆっくり発酵熟成させて作る自家製酵母パンの良さというのは、発酵フレーバーのみならず熟成で生成されたアミノ酸による旨味とメイラード反応からも起因しているということです。

 

(注1)モルト…発芽大麦。「モルトシロップ」や「モルトパウダー」という材料として、フランスパンなど無糖生地のパンの材料として微量配合されることが多い。でんぷん分解酵素「アミラーゼ」をはじめとした酵素が豊富に含まれており、生地の熟成を促す効果がある。

素材そのものの香り

最後に忘れてはいけないのが素材そのものの香りです。

主に粉の香りがまず多くを占めます。そして個人的な体感ですがその次に油脂の香りの影響が大きいと感じます。


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砂糖の違いや脱脂粉乳の有無などはそこまで大きな変化には感じません(もちろん微々たる違いはありますよ)。

 

世の中には無発酵の小麦粉食品もたくさんありますよね?

例えばパンに一番似ているものとして挙げられるのはナンやチャパティですね(ナンは発酵させて作る人もいますが、多くは重曹をメインの膨張剤としています)。

当然これらからは発酵風味を感じないのですが、それでも香ばしさを感じますよね?そして普通に美味しいです。

この香ばしさというのはメイラード反応とカラメル化に加えて、素材のフレッシュな風味が起因しています。つまり「粉の香り」というものです。

特に小麦粉はその品種や銘柄によって香りが意外と異なるものです。無発酵のものであればその違いはより一層ハッキリと感じられるでしょう。

逆に発酵熟成に重きを置いた製法ほど、素材のフレッシュな風味は薄れる傾向にもあります。

実際に中種法や液種法で作るパンよりもストレート法で作るパンの方が、クラストから香る素材の風味は強いです(こちらの動画を参照ください)。


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ちなみに小麦粉は臭いを吸いやすいです。それ故に、小麦粉の保管場所やパンの売り場の臭いがそのままパンの味となってしまう場合もあります。

雨の日の湿った臭い風味のパン、文房具屋の臭い風味のパンなど、不味いと思ったパンは大抵お店の臭いもパンと同じ臭いでした。お店の臭いが良い意味でパンの個性になっている場合もあります。

まとめ

 香ばしいパンの香りを生み出す要因を理解しておくと、自分の理想のパンを再現する時に何をすればいいのか具体的な選択肢が見えてきます。

ぜひ頭の片隅にいれておいて、レシピアレンジやオリジナルレシピの作成の際に思い出してみてください!

 

2023/05/08

by BAKE FIRST(製パン科学研究家)