オーブン庫内のスチームが実際のところパン生地にどのような働きをするのか?

こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ

ご家庭のオーブンでいかに良いスチームを出せるか、いろいろ試行錯誤されている方も多いのではないでしょうか?

メーカーや機種によってスチームの出方も違えば庫内湿度のキープ具合も異なるため、同じレシピでも焼き上がりの表情が大きく異なることはよくあります。

今回はパン作りの焼成におけるスチームや庫内湿度がパンにどのような影響を与えるのか、その効果について解説します。

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熱伝導の向上

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まず、庫内の湿度があがると熱伝導の向上が期待できます。

ミストサウナは普通の高温乾燥サウナよりも温度そのものは低いのに、暑く感じますよね?

逆に一般的なドライサウナは90℃近くあるのに、数分間入っていても火傷しません。

湿度が高いと熱が伝わりやすいのです。

また、予熱したオーブンに手を突っ込んでもやけどしないのに、ぐつぐつ煮えたお湯や揚げ油に手を突っ込むと秒でやけどしますよね。

あれも同じく、オーブンの空気熱よりも熱湯や高温の油の方が熱伝導が良いからです。

要は、液体は熱伝導が良いのです。ミストサウナは無数の小さいお湯が空気中を舞って熱伝導をよくしていると言えます。

オーブンも同じで、庫内湿度が高い方が生地に素早く熱が伝わるので、表面が焼き固まってしまう前により大きな窯伸びが得られるわけです。

火通りが良くなるとも言えるので、パンの口溶けや消化の良さも少し向上すると考えられます。

 

生地表面に水分が凝結する

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生地表面に蒸気が集まる作用もあります。

これは冬の窓ガラスで発生する結露と同じ原理です。

結露は温度の高いところ(部屋の空気)から温度の低いところ(窓ガラス)に向かって水蒸気が移動し水滴となります。

焼成では温度の高い庫内の空気から温度の低いパン生地に向かって水蒸気が移動し凝結します。

これによって、パン生地の表面にはうっすらと水の膜ができます。

更にこの水の膜が蒸発していく過程で、「気化熱(注1)」の原理で生地表面の温度上昇は抑えられ、クラスト(注2)の生成が遅くなります。それにより窯伸びできる時間が長くなり結果的にパンのボリュームアップに繋がります。

 

(注1)…液体の物質が気体になるときに周囲から吸収する熱

(注2)…パンの表皮。食パンの「耳」はクラストそのもの。

 

生地表面のα化

表面のでんぷんα化(糊化)も進みます。

表面の焼き固まりも遅くなることで窯伸びがサポートされるのはもちろん、炊きたてごはんが艶やかであるのと同じように、しっかりα化した表皮は卵を塗っていなくてもツヤがあります

最近はパン屋さんでつかうデッキオーブンもたくさんの種類があり、パネル操作でスチームの放出時間を設定できるものがあります。

中にはベーグルを茹でずにスチームだけで特有のツヤ感とムチっと感を再現できるデッキオーブンもあります。

ただし、一般的な家庭用オーブンではこのような強力なスチームを再現することは難しいでしょう。

業務用デッキオーブンのスチーム機能は、事前にボイラーで温めた蒸気を庫内に勢いよく噴射する仕組みです。たまに重たい扉がバタンバタンと暴れるほどの勢いです。勝ち目はありません。

この圧倒的なスチームの質の違いは、家庭用オーブンで作るパンがどうしても見劣りしてしまう一つの要因と言えるでしょう。

 

 

 

 

まとめ

庫内スチームが生地に与える影響を大きく分けて三つ、ざっとまとめてみました。

ハード系のパンには当たり前のように気を使うスチームですが、そうでないパンでも少なからず良いパンに焼き上げるためには庫内湿度は必要不可欠であると言えますね。

以上、オーブン庫内のスチームのパン生地に対する働きについてのまとめでした!

 

2023/06/08

by BAKE FIRST(製パン科学研究家)