こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
パンもごはんも、時間が経ってしまうとみずみずしさが失われ、パサついた口当たりになり美味しさが半減してしまいますよね。
パンにおいてはこの現象を「老化」と呼ぶのですが、実は使う粉によって老化スピードが変わってくるのです。全く同じたんぱく量・吸水量の粉でも違ってきます。
今回はなぜパンは時間が経つと固くなりパサつくのか、パサつきにくさを決定づける要因は何なのかについて詳しく解説します。
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でんぷんの糊化と2種類のでんぷんについて
時間が経つとパンは老化が進んで固くなる。
では、なぜ老化すると固くなるのでしょうか?
それを知るために順を追ってでんぷんについて詳しくご説明します。
でんぷんの糊化
でんぷんには2種類の状態があります。
- βーでんぷん
- αーでんぷん
前者はα化(糊化)する前のでんぷん、後者はα化(糊化)した後のでんぷんのことをいいます。
α化とは、でんぷんに水を加えた状態で加熱すると、でんぷん粒が水を吸って膨らみふやけて(膨潤)、でんぷん粒の外膜が破れて中から「アミロース」と「アミロペクチン」という成分が流出することで粘り気を帯びた糊のような状態になることを言います。
二つの成分が流出することで、水分子がそれぞれの結晶構造の間に入り込める形になるので、元々の結晶構造が緩みます。それによりゲル化するわけです。
2種類のでんぷん成分の違い
アミロースとアミロペクチンはそれぞれで形状が異なります。
アミロースはグルコース分子(ブドウ糖)が直線状に繋がったものです。「直鎖状」なんて言われています。
アミロペクチンはグルコース分子が無数に枝分かれするような形で繋がっています。まるで木の枝のような形となっています。
この形状の違いが、α化したでんぷんの粘り方に違いを生んでいるのですが、そのメカニズムについては後述しますので、まずは皆さんに馴染み深い「あの食材」を例にとってこれらの性質について理解していただきます。
うるち と もち
「うるち米ともち米」は皆さんにもなじみ深いかと思いますが、これらの性質の違いはでんぷんの質によるものです。
うるち米のでんぷん粒の中にはアミロースが約2割、アミロペクチンが約8割含まれています。
一方でもち米のでんぷん粒にはアミロースはほとんど含まれておらず、アミロペクチンがほぼ100%です。
ちなみにタイ米などパサパサしているお米はうるち米よりもアミロース含有量が多く、約3割ほど含まれています。
つまり、でんぷん粒に含まれるアミロース成分の割合が高いほど、モチモチ感やしっとり感が少ないということです。
ごはんとお餅で粘りが異なるのはなぜ?モチモチ感のメカニズム
「おもちは米から作ってた、ならお米も潰せばおもちになるかな?」
子どものころはそう思って茶碗に入った米を箸でこねたりしたものです。
残念ながらうるち米を叩いてつぶしてもお餅にはなりません。
お餅はもち米、つまりアミロペクチン100%だから成り立つものです。
対して普段食べているごはんはうるち米、つまりアミロース20%を含むでんぷんだからおもちにはならない。
ではなぜアミロースが少ないとモチモチになるのか?
先ほどアミロースは「直鎖状」、アミロペクチンは「木の枝の形」と説明しましたね。
それぞれを木材に例えみると、アミロースは枝を綺麗に取り払ったツルツルな丸太、アミロペクチンは伐採したままの枝が無数についている木と言えます。
それぞれを分けて木材置き場に積み重ねてみましょう。
そして、いざ使おうと横から引っこ抜いてみてください。
アミロースの方は簡単に引っこ抜けたと思いますが、アミロペクチンの方は無数の枝々が引っかかって、なかなか引っこ抜けないですよね?
ここで、重機を使って無理矢理引っこ抜こうとするとどうなるか。枝同士で無数に絡まっているため、積み重ねてあるアミロペクチンは芋づる式に全て引っ張られてしまいますよね。
お餅を食べるときになかなか千切れないでびよーんと伸びてしまうのは、後者のように枝分かれしたでんぷんが枝々で引っかかっていると例えることができます。
でんぷんの老化ってどんな現象?
老化の原理
加熱され結晶構造が緩んだでんぷん成分は、冷却されると今度は元の構造に戻ろうとします。
戻ろうとする過程で、結晶構造に抱き込まれていた水分は排出されてしまい、水分が自由の身となります。これをでんぷんの老化と言います。
そこから時間が経つことで水分は蒸発してしまい食品がパサついてしまうのです。
しかし完全に元通りになるわけではないので、再加熱することで再びでんぷんはα化することが出来て美味しく食べられるのです。
実は、3〜6割が水分でできている食品が一番老化しやすいと言われており、炊いたお米もパンもその部類に入ります。(配合のBP(%)ではなく焼成後の水分割合で考えます)
そして冷蔵の温度帯(特に2〜3℃)が一番老化が進みやすいです。故にパンは常温か冷凍が推奨されているのです。
老化と消化の関係
でんぷんが老化すると、食品としての消化も悪くなってしまいます。
これには、消化に関わる酵素は水分のある環境でしか働けないことが深く関わってきます。
パン生地の中での「熟成」と同じく、人間の消化吸収においては酵素の働きが必要不可欠です。
(パン生地の中で進む「熟成」は発酵とはまた別です。詳しくはこちらの記事をご覧ください)
でんぷん成分であるアミロースやアミロペクチンは無数のグルコース(ブドウ糖)が連なっていて非常に大きな分子構造のため、酵素の働きで分解して麦芽糖(ブドウ糖が2つ連なった状態)にしないと吸収できないのです。
たんぱく質、脂質なども同じです。消化不良で吸収できないまま腸を通過すると、悪玉菌のエサになり腹痛の原因になったりもしますよね。
そして先ほど、でんぷんが老化すると結晶構造に抱き込まれていた水分も排出してしまう、と説明しましたね。
水分が排出されるということは、そこにはもう酵素が入り込めないのです。
水分さえ抱き込んでくれていれば酵素は無数のでんぷんいばら森をくぐり抜けて、内部からバッサバッサと伐採(つまり分解)していけるのですが、その森の中に水分がなくなるとそこでは酵素は働けないため、外側からしかアプローチできません。
これは非常に分解効率が悪いですよね。だから、消化が悪くなるのです。
老化を防ぐ方法
老化を防ぐ方法は二つあります。
一つはでんぷんがα化した状態ですぐに冷凍して、結晶構造から水分を排出させる前にカッチコチに動けなくしてやることです。
この時、0℃に到達する過程でどうしても2〜3℃という老化しやすい温度帯を通過することになるため、この温度帯の滞在時間を極限まで短くしてあげることが老化をより防ぐカギとなります。
また非常食のアルファ化米は、高温のまま急速に乾燥させて水分を10%以下にすることで老化を防いでいます。
先ほど水分が30〜60%のものは老化が進みやすいと説明しましたが、10%以下だと老化はかなり進みにくくなります。
乾燥させたらどんどん老化が進みそうに思えますが、でんぷんの老化はそもそも構造がα化前の状態に戻ることを指します。
構造が戻ってしまう前に全体の水分量を一気に減らしてしまえば、ガチッと固まり構造そのものは動かなくなる、ということでしょう。
もっとわかりやすく言うと、外側をガチっと固めて内側を固定する、そんな感じです。
粉の種類で老化のスピードが変わる?
ここまででんぷんの糊化と老化について詳しく説明してきましたが、使う小麦粉の種類によっても老化のスピードが変わってきます。
アミロペクチンは老化が遅い
アミロースが多いでんぷんと比べて、アミロペクチンが多いでんぷんは老化が遅い傾向にあります。
でんぷんが老化して固くなるというのは、ただ水分が失われるだけでなくアミロースやアミロペクチンが寄り集まってぎっしり密集し束ねられてしまうということ。
アミロースは一本の綺麗な丸太ですから、隙間無くぎっちりと束ねることも簡単ですよね。隙間がなくなれば水分はそこに入りません。
しかし、アミロペクチンは無数に枝分かれしています。枝がたくさんついた木材同士を隙間無くぎっちり束ねることは難しいですよね。そして、枝々の隙間にも水分が抱き込まれています。スキンヘッド頭はすぐ乾きますが、ふさふさ髪の毛はなかなか乾かないのと同じです。
アミロペクチンの方が老化が遅いのはこのようなメカニズムによるものです。
国産小麦はアミロペクチンが多い
「国産小麦を使ったパンはもちもちする」
と聞いたことがある方も多いかと思います。
中には
「パンの骨格であるグルテン形成が少ないために、焼き上がりのボリュームが控えめとなる。結果として、目が詰まってもっちりとした食感になる」
という説明で終わっている情報も多いのですが、理由はこれだけではありません。
国産小麦のでんぷんは、外国産と比べてアミロペクチンの含有量が多いのです。
アミロペクチンは「もち」の性質ですから、それが多いパンは当然もちもちとした食感となります。ただボリュームが小さいというだけではないのです。
下記の記事で紹介しているミックス粉など、もちもち感を演出するためにあえてもち米粉をブレンドするものだってあるくらい、アミロペクチンの割合は食感に大きな影響を与えます。
そして、先ほど紹介したように、アミロペクチンは老化が遅いため、つまりアミロペクチンをより多く含む国産小麦や、もち米粉を使ったパンは老化が遅くなると言えます。
そして、これこそが国産小麦のおいしさを作り出す大きな要因と言えるのではないでしょうか。
パサつきにくいパンを作る方法
「手作りパンはすぐパサつく…」
そんなお悩みありませんか?
お店のパンには保存料が入っているからパサつかないんだ、なんて思っている方もいるかもしれませんがそれは違います。
無添加でも上手に作ればパンの製法に関わらずパサつきにくいパンを作ることは可能です。
もし手作りのパンが市販のパンより明らかに早くパサつくようなら、作り方に問題がある場合が多いです。
こちらの動画でチェック項目をいくつか紹介しているので、ぜひご覧ください。
基本をしっかり出来るようになれば、ストレート法でもしっとりふわふわなパンを作ることが出来ますので、まずは「〇〇法で作れば魔法のようにパンがしっとりする!?」といった子供騙しの小手先テクニックに頼る前にしっかり改善しましょう。
(基本が出来ていないままテクニックに頼っても、良いパンは作れません)
湯種法で作る
湯種法で作ったパンはでんぷんのα化度合いが高いため、老化も遅いパンになります。
手ごねで上手に作るにはかなり難易度の高い製法ではありますが、湯種法でしか味わえない食感が得られるのは大きなメリットです。
オーバーナイト法で作る
オーバーナイト法はパン生地を寝かせておく時間が通常より圧倒的に長いです。
そのため生地のでんぷんが水分をじっくり吸収して抱き込む(水和する)ため、老化の遅いパンになります。
レシピの配合を変えなくてもオーバーナイトにするだけでその変化が得られるため、最も簡単にできるパサつき防止製法とも言えます。
まとめ
世界各国で作られるパンは、その各々で収穫される小麦で作れる一番美味しいスタイルが採用されて、長く伝統として定着しています。
でんぷんの特性について今一度しっかりと理解し、国産小麦や米粉など特徴のある粉をうまく活かしたパン作りをしたいですね♪
以上、でんぷんの老化と粉による違いについての解説でした!
2023/05/11
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)