湯種法とは?モチモチになる理由を科学的に解明!プロも驚く本格レシピも

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こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ

しっとり感が長続きする美味しいパンが作れると言われる「湯種法(ゆだねほう)」ですが、そもそも湯種法とは一体何なのか?

もちもち食感になる理由やメリット・デメリットなど、科学的に解説します!

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湯種法とは?


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湯種法(ゆだねほう)とは、生地に湯種を配合して作る日本独自の製パン法です。別名「湯ごね法」。

湯種とは、小麦粉と熱湯を混ぜた生地のこと。

これをパン生地に配合することで、しっとり感やモチモチ食感など様々な変化が得られます。

中種や液種のようにイーストは加えないので、発酵種法とは系統の異なる製法です。

 

f:id:second_burnout:20210501124557p:plainパンの配合に使う小麦粉のうち何割かを湯種用に使います。

例えば強力粉100%のレシピの場合、うち10%を湯種用に使うなら残りの90%を本捏ねで使用します。湯種は本捏ねの際に他の材料と一緒に混ぜます。

ここに基本的な湯種食パンのレシピ例をご紹介します。

材料 BP(%)
湯種  
強力粉 20
熱湯 22
本生地  
強力粉 80
上白糖
食塩
脱脂粉乳
インスタントドライイースト 1
53
無塩バター 3
ショートニング
合計  190.87

これは強力粉の2割を湯種用に使うパターンのレシピですね。

 

湯種の作り方

広く知られる簡易的な湯種の作り方

先ほど紹介した配合例①が簡易的な湯種で作る場合のレシピです。

やり方はとても簡単。

  1. 熱湯と粉を素早くよく混ぜる
  2. 冷蔵保存で一晩寝かせる

粉を20g使う場合、熱湯は少し多めの22g以上にすると混ぜやすいです。

ドロドロになるかと思いきや、粉のでんぷんが熱でα化することでより多くの水分を吸うため、べた付くけれどまとまりのある物性となります。

安全性や簡便性からこの方法を採用しているお店がとても多いです。

プロでも知らない本格的な湯種の作り方

湯種法についてのデメリットで「作業に危険が伴う」と説明する専門書があります。

先ほどの方法ならそこまで危険性は無いのですが、より湯種のメリットを引き出せる本格的な作り方の場合は当てはまります。

こちらにその方法を紹介します。(業務規模向きです)

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  1. ミキサーボウルの下にガスコンロを設置。
  2. ミキサーボウルの中にお湯を入れ、フックも中に入れた状態で火をつけ沸騰するまで温める。(フックを同時に温めるのは、冷たいフックでミキシングすると熱が奪われるため)
  3. 温まったフックを取り付け、粉を投入して加熱しながらミキシングする。この時ミキサーボウルは遠火で加熱する。
  4. 粘りが出てきたら終了。

この方法を用いることで、湯種に使う粉のα化率が極めて高くなり、湯種パンの特徴が最大限に活かされます。

この方法では湯種作成中の水分蒸発が多いのと、粉がより水分を抱き込むため、より多くの熱湯を使うレシピが使われます。(下記参照)

材料 BP(%)
湯種  
強力粉 20
上白糖
食塩
熱湯 40 
本捏ね  
強力粉 80 
上白糖
脱脂粉乳
インスタントドライイースト 1
42 
無塩バター
ショートニング
 合計 199.87

そもそもα化とは?

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α化(糊化)とは、でんぷんを加熱することにより、水を吸って糊状になることをいいます。

でんぷんをα化させることで、

  • 水分がでんぷんに抱き込まれ、保水力アップ
  • 消化しやすくなり、噛むほどに甘味が増す

といった効果が得られます。炊いたお米が噛めば噛むほど甘くなるのと同じ理屈です。

実は簡易的な製法だと、でんぷんα化が不十分?

最初に紹介した簡易的な作り方だと、粉の温度が25℃の場合に98℃の熱湯を混ぜても湯種の温度はこうなります。

「(25+98)÷2=61.5℃」

寒い日はもっと下がります。

そして、混ぜるのに時間がかかるほど更に下がります。

 

これが何を意味するかというと、60℃程度の温度ではでんぷんの十分なα化には足りないのです。

 

下記の記事でも生地温度によるでんぷんの変化について解説していますが、でんぷんの完全なα化には最低でも70℃は必要です。

paopao-bakefirst.hateblo.jp

55~65℃はでんぷんが水分を吸って膨らむ「膨潤」という作用が起こり、でんぷんの外膜がふやけます。

これはα化の準備段階でしかありません。

そこから更に加熱が進み、70℃からようやくでんぷんの外膜が破れ、中のアミロースやアミロペクチンといったでんぷん物質が流れ出します。ここまで来て初めて「α化(糊化)した」と言えるのです。

 

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簡易的な作り方ではでんぷんが全くα化していないわけでもありません。

当然、粉に熱湯をかけた時に最初に熱湯と触れ合った部分の粉は98℃という高温を直接受けることになります。

ですが、混ぜれば混ぜるほど全体の温度は均一化されていき、しまいにはそれ以上でんぷんがα化できない温度にまで下がってしまうのです。

 

実際に家で鍋を使って本格的な湯種作りを実験しましたが、作りながら炊いたお米のような香ばしさがして、より透明度の高い湯種ができます。

その湯種を使って作ったパンは、簡易的な作り方よりも湯種の効果が顕著に現れており驚愕しました。

湯種法のメリット

  • しっとり感の向上
  • パンの老化が遅くなる
  • モチモチ食感が得られる
  • 消化が良くなり、噛めば噛むほど甘味が際立つ

これらはパンのでんぷんα化率が高くなることで得られる結果ですが、この結果を導くための方法で「高加水(多加水)製法」というものもあります。

これは、通常よりも多い水を生地に配合する製法なのですが、生地はとてもべたつきやすく柔らかく、手粉を多く必要とし難易度がかなり高いです。

ですが湯種法を使えば、結果的には同じくらいの水分量で仕込んでいても、湯種法の方が生地に硬さがあるため扱いやすく、そこまで難易度は高くないと言えるでしょう。

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なぜ湯種法だと生地が硬いの?

高加水パンはただ水を多く入れただけなので、生地に含まれる水分の多くが「自由水」といって、どの物質にも吸着していない自由に動ける水分となっています。

湯種法の場合は、湯種の中では多くの水分が粉のでんぷんに吸着し抱き込まれているため、高加水パンにくらべて自由に動ける水分が少ないと言えます。

この自由水の量の違いが生地の硬さに影響を与えています。

また、湯種は高温に晒されていますから、粉のグルテンが熱で変性してしまいます。

グルテンは弾力だけでなく伸びの良さ(つまり柔軟性)にも貢献します。使えるグルテンが減った分だけ柔軟性に欠けてしまうことで硬く感じることにもつながります。

湯種法のデメリット

  • パンのボリューム低下
  • 生地がデリケートになる
  • ミキシング時間が長く必要となる

湯種に使った粉のグルテンは熱で変性し、その結果全体で機能するグルテンが少なくなることでガス保持力が弱まり窯伸びも悪くなる

極端な例えになりますが、強力粉100%のうち湯種に使う粉が10%なら、強力粉90%分の力しか発揮できないと言えます。

さらに、それは生地の扱いやすさにも影響を及ぼします。

ちゃんと機能するグルテンが少ないということは、柔軟性の低下を招き、生地の耐久性が劣ります。生地表面が破れやすいので扱いがデリケートになります。

 

ちなみに湯種に使う粉は多くても20%まで、それ以上はパンのボリューム低下や生地の扱いづらさが著しく目立つようになります。

 

湯種の作り方バリエーション

湯種に使う粉は薄力粉の方が良いって本当?


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湯種は小麦粉を熱湯と混ぜ合わせて作るため、粉に含まれるグルテンが壊れてしまいます。(グルテンはたんぱく質の結合体だからです)

「ということは…湯種に使う強力粉を代わりに薄力粉にしても問題ないのでは?」

勘のいい方はそう気付くでしょう。

実際に強力粉湯種と薄力粉湯種、米粉湯種でパンを作り比べてみました。非常に興味深い結果が現れたのでぜひご覧ください。

湯種に砂糖と塩を入れるのはなぜ?

これは、多くのお店では湯種を大量に作って一晩冷蔵で寝かせる際に、傷みにくくするために砂糖と食塩を配合しています。

ご家庭で作る湯種の量であれば、冷蔵庫に入れただけでもすぐに芯まで冷えるので傷むことはあまりないかと思いますが、お店ではそうもいきません。

一回に作った量が多ければ多いほど、しっかり中まで冷えるのに時間がかかります。時間がかかる分、30℃~40℃という雑菌が増えやすい温度帯となる時間が長くなります。よって傷みやすいと言えます。

そういった部分を考慮しての安全策として配合しているだけですので、特にこれが味に影響を及ぼすことはないでしょう。

湯種を作る手間を省いて、簡単に湯種パンが作れる?!

奥本製粉という湯種のパイオニア的な製粉メーカーで、様々な湯種商品が製造販売されています。

その多くは業務用湯種製品なのですが、最近ご家庭でも簡単に湯種パンが作れるミックス粉が発売されました。

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「湯種粉末」というまた新たな湯種のスタイルを用いた製品で、私も半信半疑で買って試してみた感想をこちらの記事にまとめています。

 こういう商品がもっと広まって、日本独自の製パン法がより広く認知されるようになったらうれしいですね。

 

 

2023/05/11

by BAKE FIRST(製パン科学研究家)

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