全粒粉パンにはちみつを入れると臭み消し効果があるって本当?

全粒粉パンはちみつを配合するレシピは結構たくさん見かけますよね。

多くのレシピでは全粒粉の臭みを消すことを目的としてはちみつが使われているようです。

ですが、本当にはちみつを配合することで全粒粉の臭みは消せるのでしょうか?

そして、なぜはちみつが全粒粉パンの臭みを消すことができると言われているのでしょうか?

その真偽に迫ります…!

 


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はちみつの効果をより明確に調べるための作戦

基本的に全粒粉パンにはちみつを配合する場合、粉に対して3%程度しか使わないことがほとんどです。

しかし、それだと違いがハッキリわかりづらいので今回は思い切ってはちみつ10%使用で作ってみます。

ここまで使って消臭効果が感じられないのであれば、わざわざ3%使う意味も無いってことがわかるでしょう。

比較対象として作るはちみつ不使用の生地も、はちみつ10%と同じ糖分量になるように上白糖8%を配合します。糖分量が変わってしまうと味も風味も違ってきてしまいますから、ここは揃えます。

そしてはちみつの約2割は水分です。はちみつ不使用の生地はその分水分が足りなくなるので、仕込み水を最初から2%増やすことで生地の吸水率を揃えます。

これで比較検証の準備は万端です。

 

はちみつを使うと生地がベタつく?実際のところ…

はちみつを使うと生地がべたつく」と言う人けっこういますが、実際のところ今回のように糖分量も水分量も同じになるよう調整したうえで比較すると、生地感の違いは全く感じられませんでした

強いて言えば、はちみつ入りの生地はこね中にはちみつの香りがふわっと漂って幸せな気分になれたこと、くらいでしょうか(笑)

ハチミツにもたくさん種類があるので、すごくナチュラル志向な高級品で酵素活性がバリバリ残っているはちみつがあれば生地はベタつくでしょうけど、普通にその辺に売ってる一般的なはちみつは酵素活性はかなり弱いかほぼ無いので、はちみつが生地のべたつき原因であるとは極めて言いにくいです。

多分ですが、糖分率や水分率の調整の必要性も方法もわからない人が、既存のレシピにただはちみつを足して作ったらすごくベタベタしてビックリして、その感想をネット上に書き込んだ結果そういう情報が知れ渡った…みたいな?

(もちろん上白糖の主成分であるショ糖よりもはちみつの主成分である果糖・ブドウ糖の方が吸湿性は高いので、理論上はベタつきが増えるというのは間違いではないのですが、常識的な使用量の上では違いがあまり感じられなかったので僕はそう解釈しています)

 

驚愕!焼き立てと翌日でハッキリ異なる香りの差

気になる焼き上がりの違いについて。

焼いた当日は、微妙にはちみつ使用の全粒粉パンの方が甘い香りがして全粒粉特有の臭みも弱いような気はしましたが…

でも「消臭効果があるよ!」と声を大にして言えるほどの違いがあるとは思えませんでした。

ですが不思議なことに、翌日もう一度香りをかいでみたところ、その差がハッキリしてきたのです!

なぜこんな現象が起こったのでしょうか?

それは、はちみつに消臭効果があるとされるメカニズムを知ることで納得できました。

 

はちみつの消臭効果メカニズム

そもそも食品の嫌な臭いを消す作用って、

  1. 異なる香り成分をぶつけて目立たなくする「マスキング効果」
  2. 香り成分を一緒に揮発させて文字通り消臭する

この2パターンがほとんどです。

後者は料理酒などアルコールによる消臭作用です。それ以外は基本的には前者で、はちみつもそれに該当するにはしますが…

今回使ったハチミツはその辺のスーパーで買えるようなあっさり風味のもので、ハチミツ自体の香りで全粒粉の臭みをマスキング出来ているかというと微々たるものです(もちろんゼロではないけど)。

もっとクセの強いハチミツならそれ自体の匂いでマスキング効果が得られるかもしれませんが…

今回はちょっと違う形でのマスキング効果が得られています。

 

それは「メイラード反応」によるものです。

まず、はちみつに含まれる糖分「果糖・ブドウ糖」は、上白糖の主成分である「ショ糖」よりもメイラード反応が進みやすい特徴があります。

(動画の色味調整やそもそもの生地の色もあって、画面じゃわかりづらいですがはちみつ使用の方が焼き色の赤みが微妙に強かったです)

メイラード反応とは、糖とアミノ酸が結合して食欲をそそる香り成分と焼き色の元となる褐色物質を生成する化学反応のことです。

常温でも長時間の熟成で進む反応ではありますが、基本的には高温で反応がスムーズに進むため、焼き色と焼き香りの元であると言えます。

パン屋さんや焼肉屋さんなどから漂う美味しそうな香りの大部分はこのメイラード反応による恩恵でしょう。

 

ここまでの説明を読んで、こう気付いた方は鋭いです。

「じゃあパンのメイラード反応はクラスト(表皮)で主に進むんでしょ?それがマスキング効果と何の関係があるの?」

ここから先が、「翌日になって香りに差が現れた不思議な現象」を解明する考察です。

まず、パンというのは焼き立てスグはまだ風味が全体に馴染んでいません。

時間が経つにつれてクラム(中身)のアルコール臭が飛び、クラストの香ばしさがクラムに浸透していきます。

この仕組みがあるからこそ、焼きたてよりも翌日の方がその差が明確になったのではないかと考えています。

また、そもそもメイラード反応は糖分の種類やアミノ酸の種類など、その組み合わせ次第で如何様にも変わってきます。同じメイラード反応でもパンと焼肉の香りが全然違うのはその辺の複雑な違いがあるからこそです。

糖の種類がはちみつと上白糖では違いますから、そういった影響も否定は出来ないでしょう。

 

結局、わざわざはちみつを使う意味はあるのか?

ここまではちみつの消臭効果はデカイ!という雰囲気で文章を書き綴ってきましたが…

実際何も言われずに全粒粉パンを食べさせられてはちみつの有無を当てろと言われたら、正直自信ないです(笑)

はちみつ10%配合でもそんな感じなので、たったの3%じゃ普通の人にはその差を感じられないかと思います。

だったら、生地に練り込むんじゃなくて食べる時にはちみつ塗る方がよっぽど効果あると思います(この場合のマスキング効果はメイラード反応ではなく完全にはちみつ自体の風味によるものになります)。

はちみつって高いですからね…

皆さんもぜひ全粒粉パンにはちみつを使う際は、ぜひはちみつの有無による効果があるかどうか確かめた上で、その効果に納得した上で使ってみてはいかがでしょうか?