ホシノ天然酵母の大きな特徴、それは「麹菌・米」が使われていることです。
麹菌には豊富な酵素が含まれています。
パン作りにおいて酵素は生地の熟成に欠かせない存在です。
僕はパン生地の発酵と熟成を分けて考えています。
発酵は酵母菌が糖分を分解して炭酸ガスで生地を膨らませる現象。
熟成は各種酵素が生地の成分を分解して、より濃厚な味を作り出すこと。
このように大きく二つにわけた捉え方をします。
熟成ってどんな作用?
熟成の中でもとりわけ効果の大きい二つが、デンプン分解とタンパク質分解。
前者はアミラーゼ(デンプン分解酵素)が生地のデンプンを麦芽糖に分解する作用で、後者はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が生地のタンパク質をアミノ酸に分解する作用です。
麦芽糖が生成されれば、酵母菌の発酵に必要な糖分を補給できるし、発酵速度が熟成速度を追い越さなければ焼く直前まで糖分が残るため、自然な甘味の増加や焼き色の向上に役立ちます。
アミノ酸が生成されれば旨味が増します。また、パンの焼き色の元となる化学反応「メイラード反応」は糖分とアミノ酸が結合するものです。アミノ酸が増加すれば焼き色の向上にも繋がります。
麹菌は力強い熟成装置
種類によって多い少ないはピンキリですが、小麦粉には微量の酵素が含まれています。
また、フランスパンなどではモルトという酵素たっぷりな材料を加えて熟成を促します。
麹菌もモルトと同様に酵素がたっぷり含まれているので、熟成を促す目的でフランスパン専用粉などに「麹粉末」として添加されていることがあります。
通常の熟成では得られないホシノ天然酵母ならではの風味
ホシノ天然酵母は、パン生地に直接混ぜる前に一度水と合わせて一晩発酵熟成させる種起こしをします。
この種起こしの最中に何が起こっているのか?
一つは熟成です。
麹菌の酵素によって、原材料として含まれる米と小麦粉のデンプンやタンパク質などを分解します。
もう一つは酵母菌の活性化。
熟成で得られた糖分を使って、原材料として含まれる酵母菌が発酵をはじめて活性化します。
ホシノ天然酵母では、小麦だけでなく米を麹菌で消化分解して発酵するので、小麦だけを小麦やモルトの酵素で分解するのとは、得られる風味がかなり異なります。
米と麹の組み合わせと言うと、日本酒や甘酒が思い浮かびますよね?
ホシノ天然酵母は使うだけでパンから日本酒のような透き通った心地よいアルコール臭がほんのり香ります。もちろん焼きあがったパンが酒臭くなるわけではありませんが、焼成中に窯から漂う香りはまさしく日本酒のそれです(お酒を飲まない僕が言うのもあまり説得力に欠けますが…少なくともワインのようなアルコール臭とは別物に感じます)。
また、麹を使った発酵食品といえば味噌や醤油がありますね。
ホシノ天然酵母で作ったパンからは、普通のパンとは違うまるで焦がし醤油のような雰囲気の香りが薄っすら感じられます。
普通にモルトや小麦粉自身の酵素で熟成させるのでは得られない風味なので、やはり麹の影響が大きいと思います。
ホシノ天然酵母の新たな可能性を探る
近年、自家製酵母パンの製法として増えているのが「自家製酵母種とイーストの併用」です。
イースト使うならイーストだけでパンは作れるのに、なんでわざわざ自家製酵母種も併用するのかというと、自家製酵母種そのものに既に様々な香り成分やうま味成分が含まれているからです。
自家製酵母種の力で生地を熟成発酵させなくとも、それを入れるだけでそれなりの効果は得られるということです。
そしてこれはホシノ天然酵母でも同様のことが言えるでしょう。
種起こしをして生種を作ったその時点で、原材料である米や小麦が麹の酵素によって分解され、酵母菌の発酵も進んでいます。香りをかぐと日本酒のような爽やかなアルコール臭が感じられます。
ということは、これを本来発酵させずに作る焼き菓子などに「調味料」として入れるだけでも、個性的な焼き菓子が作れるのではないか?と考えています。
ホシノ天然酵母は発酵力がそれなりに強いので、わざわざイースト使う必要もないとは思いますが、中には超リッチなパンとかでイーストの強い発泡力が必要なパンもあるでしょう。そういったモノに調味料として加えるのも新たな発見があるかもしれません。
現状、小分けパックで販売されているものですら使い切るには難しい要領ですので、今後使い道をパンに限らず幅広く検証してみて、良いアイディアがあれば随時皆さんにお伝えしていこうと思います。