こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
国産小麦には色々な種類があって、品種や銘柄をはじめメーカーによっても粉の特色が異なります。
そのため、それぞれ分けて特徴を把握する必要があります。
今回は国産小麦「ゆきちから」の特徴を、一般的な外国産強力粉「イーグル」と比較して解説します!
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国産小麦「ゆきちから」の特徴を外国産「イーグル」と比較!
ここでは東日本産業製造の岩手県産強力粉「ゆきちから」を例に挙げて解説します。
蛋白量(%) | 灰分(%) | |
---|---|---|
ゆきちから | 11.0 | 0.48 |
イーグル | 12.0 | 0.38 |
外国産強力粉であるイーグルと比較すると、たんぱく量がやや少なく灰分が多いですね。
イーグルなど外国産強力粉の多くは様々な品種の小麦をその時のコンディションに合わせてブレンドして製造されているため、収穫年度によるブレが少ない代わりに小麦としての個性はあまり際立ちません。
一方でゆきちからは岩手県産の「ゆきちから」という品種の小麦を一本挽き(ロング挽き)(注3)で製造されているため、ゆきちから小麦の個性が100%際立ちます。
(注3)一本挽き…他の品種を混ぜずに単一品種の小麦のみで粉を作ること。一般的に市販されている国産強力粉の多くは一本挽きで製造されているが、「〇〇ブレンド」という品名の粉はその名の通り複数品種が混ざっているため一本挽きではない。
ゆきちからで作ったパンの特徴
ゆきちからで作ったパンの特徴は何と言っても味です。
粉の比較検証ではクラスト(注1)の香りの差を感じることは多いですが、クラム(注2)の味わいの違いまで体感できることはあまり多くありません。
ですが、ゆきちからで作ったパンは外国産強力粉のパンと比べて明らかにクラムの味わい・香りに差があることが体感でき、ほんのり優しい甘味と温かみのある香りが特徴的です。
また、生地の骨格であるグルテンがやや少ないため、歯切れ・口溶けの良さが際立ちます。
(注1)クラスト…パンの表皮。耳とも言う。
(注2)クラム…パンの内側。内相とも言う。
なぜクラムの色合いが黄色っぽい?
動画のサムネイル画像からもわかる通り、クラムの色合いはゆきちからの方がやや黄色味がかっています。
これは国産小麦に多い特徴で、ニンジンなどに多く含まれるカロテノイド色素が外国産小麦に比べて多いことが原因です。
なぜこのような違いが現れるのかと言うと、栽培における土壌の違いです。
外国産強力粉の主な産地である北米やカナダと比べて、日本の土壌は有機物や窒素分が多く含まれている傾向があります。これが小麦のカロテノイド色素合成促進に影響すると考えられています。
※カロテノイド色素は主に小麦の外皮により多く含まれています。
パンの大きさは?ふわふわになる?
生地の骨格であるグルテン量が少ないため、生地のガス保持力がイーグルよりも弱くなります。
そのため最終的なパンのボリュームはやはり小さい焼き上がりになります。
とはいえ上手に作ればしっかりとふわふわなパンを作ることが可能です。
「国産小麦で作ったパンはモチモチになる」
とよく言われますが、モチモチと表現するほどの食感ではありません。むしろ歯切れが良いためトーストした際のサクみはイーグルよりも優れています。
とはいえやはり膨らみが少ない分だけ、手でギュッと潰した際の抵抗感はイーグルと比較して強く感じます。
最適吸水量は?
最適吸水量は作るパンの種類など配合によって変わりますが、ここでは基本的な食パン配合の場合で解説します。
イーグルをはじめとする様々な外国産強力粉の吸水量は68~70%が最適ですが、今回検証したゆきちからでは64~65%が最適でした。
グルテン量が少ないのでややベタつきのある生地になりますが、ベタつきを避けるためにこれ以上吸水量を減らしすぎると、パサつきやすく美味しさを犠牲にしたパンになってしまうでしょう。
ゆきちからでパン作りをする際の注意点
吸水を減らしすぎないこと
ゆきちからで基本的な食パンを吸水64~65%で作ると、イーグル生地に比べてややベタつきのある生地になります。
どんなに良いこね具合まで捏ね上げて生地が完成しても、イーグル生地よりベタつきは残ります。
だからといってベタつきの無い生地を作るために吸水をそれ以上減らしてしまうと、パサつきやすくしっとり感に欠けたパンになってしまいます。
「捏ねあがったらベタつき無く扱いやすい生地」
というのは基本的にバターロール生地か菓子パン生地のような類のものくらいで、食パン生地など多くのジャンルでは捏ねあがってもベタつきが残るのが普通です。
「ベタついて丸めも成型もできない…」
と言うのなら、手粉を使えば良いのです。
また、ミキシング中にベタベタするからといって粉を加えることも厳禁です。
粉を加える、ということは相対的に見てその他の材料の割合が減るということです。
当然、水を減らしているのと同じことですので吸水不足となります。
「ベタベタしてたら捏ねられないじゃん!」
と思う場合、それは捏ね方が正しくないか、こね台のチョイスを間違っている可能性が高いです。
良いこね台を使って正しい捏ね方をマスターすれば、最初はベタベタだった生地でもプリップリに弾力ある生地に捏ね上げることが可能です。
オーバーミキシングに注意
グルテン量が少ない生地ほど、生地の完成は早いです。
その分捏ね時間は短縮されるためとてもラクなのですが、それだけオーバーミキシングになってしまう恐れもあるということです。
イーグルなど普通の強力粉を使った生地だと手ごねでオーバーミキシングまで到達するのは至難の業です。
しかしグルテン量が少ない粉だと、正しい捏ね方をマスターした人であれば手ごねでもオーバーミキシングまで到達する可能性は十分あります。
こちらの記事をご覧になれば、捏ね上がりの生地感とオーバーミキシングの生地感の違いがわかるようになります。
発酵時間は変わる?
イースト、砂糖、塩などの配合割合を変えていなければ、発酵時間を変える必要はありません。
イーストを使って発酵させる基本的なパン作りの場合は、粉の種類を変えたからと言って発酵速度が変わることはありません。
ただし、イーグルに比べて生地のガス保持力が低いため、特に最終発酵において膨らみが遅く感じる場合もありますが、これは発酵速度が遅いのではなくガス漏れで膨らみが小さいだけです。
この現象を「遅い」と勘違いして同じ大きさになるまで発酵を延長すると、発酵オーバーとなりかえって窯伸びが悪くなることもあります。
イーストの量は増やす?
「膨らまなかったからイーストを2倍にして作ってみたらもっとダメだった」
国産小麦のレビュー欄で頻繁に見かける対処法ですが、これは一番やってはいけないことです。
先ほどの項目でお伝えした通り、決して発酵速度が遅くなるわけでは無いのでイーストを増やす必要は全くありません。
もしイーグルなど普通の強力粉で作ったパンと同じ大きさに焼き上げたいのであれば、イーストではなく生地量そのものを増やすしかありません。
とはいえ、上手に作れていればたとえ使っている粉が薄力粉だとしても、焼き上がりの大きさがイーグルの半分以下になるなんてことはありません。
比較するとふわふわ感が劣るというだけで、ちゃんとふわふわなパンは作れます。
「明らかに全く膨らんでいないなぁ」
そんな状況なら、他の失敗要因を踏んでしまっている可能性が高いでしょう。
パンが膨らまない?パン作りで困った時に見直す点6選 - YouTube
ゆきちからを使ったオススメレシピ
一般的に世の中にあるパンレシピで「強力粉」と書かれていたら、それはイーグルやカメリヤのような外国産強力粉で作る前提のレシピです。
そのレシピをゆきちからに置き換えて作るのは、初めてだと配合調整を難しく感じてしまうかもしれません。
ここではゆきちからで作る前提で調整されたオススメレシピをご紹介します。
吸水量は最適化してあるため、減らさずレシピ通り作ってみてください♪
捏ね時間たったの5分!新感覚の絶品熟成ベーグル
砂糖の量は通常のベーグルと変わらないのに、まるでビスケットのような優しい甘味が味わえるのは、国産小麦「ゆきちから」のおかげです。
ゆきちからの良さを存分に体感できる新感覚ベーグルをお楽しみください♪
捏ねない!オーバーナイトで簡単&本格ハードトースト
ゆきちからを使ったパンは、乳製品不使用でもそうは思えないくらいまろやかな風味が味わえます。
カリっとはちみつバタートーストにして食べると最高です♪
まとめ
国産小麦「ゆきちから」は、イーグルなど普通の強力粉では決して味わえない特徴的な風味を持つ粉です。
グルテン量が異なるため多少の吸水調整など必要にはなりますが、手を加えるのはそのくらいなので決して難しいことではないはずです。
ぜひゆきちからでのパン作りに挑戦してみてください!
2023/06/04
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)