パン生地の正しい捏ね方は科学的原理を知ればマスターできる!

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パン作りの醍醐味ともいえる手ごね作業ですが、正しいやり方を知っているかいないかでパンの仕上がりに大きく影響します。

手ごねのやり方だけを解説する本や動画はいくつかありますが、中にはオススメできないやり方もあったりしますし、たとえ正しくても意識すべきポイントがわからなければ100%マスターすることは難しいです。

ここでは意識すべきポイントがわかるように、ミキシングで生地が発達していくメカニズムを交えて手ごねの正しいやり方を解説します。


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手ごねパン作りを始める前に知っておくべきこと

捏ね時間が同じでも捏ね方が違えば生地は千差万別


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パン作りでは捏ね方が違うだけで最終的なパンの風味も大きく変わってきます。

まずはこの動画で正しい手ごねのやり方をマスターすることの重要性をご覧ください。

グルテン形成"本当の"メカニズム

生地の骨格である「グルテン」の形成について、

「粉に水を加え、力を加えることでグルテンが発達する」

このように解説されていることが多いですが、実を言うとこの説明は間違いです。

とある製粉会社の実験によると、無酸素室と有酸素室で同じ生地のミキシングを比べた結果、無酸素室では良好なグルテンの発達がほとんど得られなかったという結果が出たそうです。

つまり、グルテンの発達には「酸素」が欠かせないということ。

 

業務用製パンミキサーであれば勝手に生地中へと空気が混入されるため、特に意識せずともグルテンの発達はスムーズに進みます。

しかし手ごねで作る場合、空気を生地に混入させられる正しい捏ね方をしないと、レシピ記載の倍の時間捏ね続けても良い生地は絶対に出来ません。

「オーバーナイトなら捏ねなくても良い」は間違い

近年では初心者向けのレシピ本でも「オーバーナイト法」のレシピが多く紹介されるようになっています。

これらの多くは「一晩寝かせるから捏ねはほんの少しで良い!」と解説されていることも多く、故に「オーバーナイトなら捏ねなくても捏ねたパンと同じようになる」と解釈している人も多いですがこれは間違いです。

オーバーナイト法についてはこちらのページで詳しく解説しています。

paopao-bakefirst.com

近年のパン屋さんでは最も多く取り入れられている手法でありながらも製パン史の中では歴史の浅い製法ですので、非常に奥が深いです。

短絡的で誤解を招く情報に惑わされないためにも、メカニズムをしっかり理解しておきましょう♪

捏ね方のコツ

パン生地のミキシングには三つの要素があると言われています。

  • 引き伸ばす
  • 叩きつける
  • 折り畳む

この3つのうち全てを満たす必要はないのですが、「引き伸ばす or 叩きつける どちらか」と「折り畳む」の組み合わせが必要不可欠です。

そしてより強いグルテン形成のためには、生地に空気を混入させて効率的に酸素を取り込む必要があります。

これらの要素は業務用ミキサーであれば自ずと待たされるのですが、手ごねの場合は意識しなければ達成できません。

その上「叩き捏ね」は集合住宅では騒音問題のため厳しいですし、それ抜きにしても"ある程度生地にまとまりが出てくるミキシング後半"でしか行えないため、僕はとにかく皆さんに次のコツをしっかりマスターすることをおすすめします。

「ズリっと捏ね」さえマスターすればどんな生地でも作れる!
  • 引き伸ばす
  • 折り畳む
  • 空気混入

この三つを同時に満たす捏ね方、それが「ズリっと捏ね」です。

生地を左手の指で捏ね台に押さえつけながら、右手の付け根のあたりで体重を使って生地をズリズリッと向こう側へ引き伸ばします。

この時、生地が破れて汚く見えますがむしろその方が良いです

そうやって引き伸ばされた生地を折り畳むことで、破れて表面積が急激に広くなった部分に空気が大量に混入されます。

捏ねの前半から中盤まではこの動作で十分対応できます。

生地が少し滑らかになり弾力も出てきたら、ズリっと伸ばした右手をそのまま引き戻し、そのまま再度ズリっと伸ばして引き伸ばす…と連続で行うと生地がロールされます。

だいたい4ロールくらいで向きを90°変えて同じ事を繰り返します。

この動作をマスターすると確実に生地の完成が早まりますし、体感的には業務用ミキサーでいうところの中速〜高速を再現出来ている気がします。

ぜひ、文面と動画を合わせてチェックしてみてください。(今ある動画の中ではこの動画が一番わかりやすいかと思うのでチョイスしました)


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僕はこのやり方で、叩き捏ねをしなくても業務用ミキサーにも負けない生地を作れています。

 

向いていない生地を挙げるとすれば、強いて言えばすごく硬い生地です。例えば強力粉100%で水分50%のベーグルなど…けどここまで硬い生地はそもそもどんな捏ね方でも手ごねじゃグルテンを十分に形成するのは無理ですし、そうする意図が無いレシピである可能性も非常に高いので、気にする必要はありません。

捏ね具合のチェック

パン こね具合


こねあがったら必ず捏ね具合をチェックしましょう。

チェック方法として誰でも正確にできるのが「グルテンチェック」です。

生地の一部(だいたいピンポン玉サイズ)を切り取って、それを広げ伸ばして出来た膜の状態を見ます。

この時、生地は弾力がありますので一気に無理やり伸ばそうとせず、上下にグイッグイッと数回伸ばしては、90°向きを変えて再度グイッグイッと伸ばして…と少しずつ繰り返して膜を作ります。

作るパンやレシピの意図次第でどの程度の膜であれば最適な捏ね具合なのかは変わってきますが、基本的なふんわりソフト系の食パン・バターロール・菓子パンなどは「薄く滑らかで指紋が透けて見える膜」が理想です。

これがいわゆる「ファイナルステージ」と呼ばれる段階に最も近い状態です。

捏ねたりないとどんなパンになる?

捏ね不足だとグルテン膜が十分に出来ません。

「向こう側が透けて見える膜」と言う人もいますが、それだと不十分です。

膜に指を触れてみて、指紋が透けて見えるかどうかが重要です。そこまで薄くなる前にぶちぶちと破れてしまうようなら捏ね不足です。

(もちろんこれも作るパンやレシピによっては、あえて捏ね具合を浅くすることもあります)

捏ねたりないと生地のガス保持力が低下するため最終的なパンのボリュームが小さくなります。

また、「捏ねない」ことで生地の酸化度合いは浅くなるため素材の風味(特に粉)は活かされますが、中途半端に捏ねたりない場合はイースト臭だけが無駄に際立ってしまう傾向があります。

パンチで鍛えればしっかり捏ねたのと同じ仕上がりになる?

パンチ作業には生地にコシを与える効果があるため、「ミキシングと同じ効果がある」と勘違いしている人も多いです。

残念ながらどんなにパンチ回数を増やしたところで、十分なミキシングと同等の効果は得られません。


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もしパンチだけでふわふわパンが作れるのなら、パン屋さんはわざわざ高いミキサーを買わないでしょう。

パンチで得られる効果とミキシングで得られる効果は似て非なるものだと思っておきましょう。

捏ねすぎるとパン生地はどうなる?

生地を捏ねすぎることを「オーバーミキシング」といいますが、最適な捏ね具合の状態からだんだんベタつきが強くなっていきコシが弱くなります。

最終的にはグルテン組織が完全に壊れて生地がドロドロになります。

とはいえ、強力粉100%の生地なら手ごねでオーバーミキシングまで捏ねることはほぼ不可能です。

なので、最適な捏ね具合の状態もよくわかっていない人が、捏ねすぎを恐れてほどほどで捏ねをやめてしまうと確実に捏ね不足になります。

迷うくらいならもう少し捏ねる、の気持ちでいた方が良いでしょう。

それよりも、上の項目で紹介したグルテンチェックの基準をしっかりマスターして迷いなく捏ねおわることが出来る様になりましょう。

ですが、薄力粉100%などグルテン量の少ない生地なら手ごねでもある程度のオーバーミキシングにまでなり得るので注意が必要です。

捏ねる時間の目安は?

仮に「全く同じ材料を使って、グルテン膜は指紋が透けて見えるようになるまで捏ねる」というルールの中であっても、捏ねる時間は作り手によっても変わってきますし、その他様々な要因によっても変動します。

捏ね時間が変動する要因は

  • 捏ね方
  • 捏ねスピード
  • 生地量

主にこの3つです。

捏ね方に関しては上の項目でお伝えしたコツをマスターして頂ければいいのですが、慣れないうちはスピードがゆっくりになってしまうでしょうから、だからこそ手ごねレシピでは捏ね時間を的確に指示できないのです。

「なかなか良い生地が出来ない…」と悩んでおられる方の多くは捏ねのスピード(テンポ感)がダラダラしているケースが多いです。

時計の秒針とだいたい同じテンポでズリッとやるのが良いでしょう(もっと早くてもOK)。

また、生地量が多くなるほど捏ねは大変になり時間もかかります

粉量250gまでなら30分以内でこね終わることは可能ですが、300gを超えるとかなりキツいので僕はその粉量を手ごねで扱うのはオススメしていません。

 

「捏ねる」「捏ねない」の違い

最近は「捏ねないパン」というのも流行っていて、食パンですら捏ねないで作るレシピも色々なところで紹介されていますよね。

実は、しっかり捏ねて作るパンと捏ねないで作るパンは、それぞれ全く別の良さと特徴があります。

捏ねるパンの特徴

しっかり捏ねるパンの良さは

  • 圧倒的なボリュームとふんわり感
  • 発酵風味を逃さない

デメリットは

  • 引きが強い(歯切れ悪さ)
  • 粉のフレッシュな風味が薄れる
捏ねないパンの特徴

捏ねないパンの良さは

  • 歯切れの良さ
  • 素材の風味(特に粉)を活かす

デメリットは

  • ボリュームとふんわり感が劣る
  • 発酵風味が少し逃げる
  • イースト臭が気になる傾向

 

これらの特徴を事前に知っておけば、メリットを活かしつつデメリットを補う手段を取り入れてより美味しいパンを作ることができます。

逆に、ふわふわボリューミーなパンが作りたい!という目的を持ちながらも「捏ねない」でパンチをやたら多くして誤魔化そうとすると、中途半端な立ち位置のパンとなるためかえって美味しくなくなります。

捏ねるか捏ねないか。

そこが違う時点でパンは別物になります。

 

「機械で捏ねる=捏ねすぎ注意」ではない!

業務用ミキサーと手ごねを比べるのであれば確かにオーバーミキシングに突入するリスクが増えるのも事実です。

しかし、ホームベーカリーやパンニーダーでオーバーミキシングになることは殆どないです。

むしろそれらは捏ね不足になりがちです。

そもそも下についているハネが回転するだけの構造だと、生地に与えられるパワーが足りなさすぎるのです。

言ってしまえば"ただいじくってるだけ"のレベルです。

「ホームベーカリーでオーバーミキシングになった」と言っている人は、捏ね不足の生地感を捏ねすぎ生地と勘違いしているだけです。

こちらの動画を見ていただければホームベーカリーがいかに捏ね不足かわかるはずです。


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2023/04/28

by BAKE FIRST(製パン科学研究家)