パン作りにおける塩の役割について解説

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パンに塩を入れる理由は?

パン作り 塩 役割

塩はパン作りの材料の中でも「必須材料(主材料)」と呼ばれるものの一つです。

パン生地に対して実に様々な作用を示すため、パンに塩を入れる理由は単に塩味を加える事だけではありません。

ここではパン作りにおける塩の役割がわかるよう、プラスの効果とマイナスの効果に分けてそれぞれ解説していきます。

 

塩がパンに与えるプラスの効果

味の骨格となる

塩はパンの材料としてはとても少ない分量ですが、味の骨格を形成する非常に重要な材料です。

味以外に様々な影響があるため「たくさん入れてしょっぱい生地を…」とはできませんが、小麦粉やその他の材料の味を引き立てることが出来ます。

あるのとないのではパンの味は大きく変わります。

 

生地の引き締め作用

塩はパン生地の骨格であるグルテンを適度に引き締める効果があります。

それにより丈夫でコシの強いグルテンとなることで、ガス保持力が向上します。

ガス保持力が向上すると発酵で生成される炭酸ガスをより多く抱え込むことができ、また焼成での急激な膨らみにも耐えられるためパンのボリュームがアップします。

特に焼成中にガス漏れが多いと発酵風味もより多く逃げていきやすいので、発酵風味を守ることにも繋がると言えるでしょう。

生地のコシが強いことで上に大きく膨らむことが出来るため、食パンタイプでのふんわり感にも大きく寄与します。

 

発酵コントロール

塩には抗菌作用があるため、適量の使用で酵母菌の活動を程よくコントロールすることが出来ます。

酵母菌はその時の生地の温度やpHなど様々な要因から活性が上下するため、パンの製造工程を通して後半にいくほど活発になりますし、その変化は直線的ではありません。

時に異常な発酵力を示すこともあると言われ、それを抑制してより安定したパン作りが可能となります。

また、本来塩を入れずに作る中種や液種などの発酵種ですが、一晩じっくりと熟成発酵させる場合に塩を加えることで発酵オーバーを防ぐこともできます。

 

焼き色の確保

酵母菌の呼吸・発酵活動では糖分が消費されます。

塩を入れないと酵母菌の活性が高まり生地中の糖分が消費されすぎてしまう場合がありますが、上記の発酵コントロール効果によってそれを防ぐことができます。

糖分消費を抑えることで焼成前まで生地中糖分がある程度残り、それが焼き色に繋がります。

 

雑菌繁殖を抑制

パン作り 塩 効果

イースト使用量の極端に少ないレシピや自家製酵母でのパン作りでは、酵母菌の絶対数が少なく勢力が弱いため雑菌の繁殖リスクがあります。

とはいえ雑菌そのものは意図して塊を入れるわけではないので、塩の抗菌作用によって雑菌繁殖を抑え込むことができます。

自家製酵母であっても酵母菌はある程度の塊で入れることになるので、多少発酵力が抑制されてもパン生地としての発酵は問題なく進みます。

酵母を少し抑え込む代わりに雑菌は完全に抑え込む、そのように考えるといいでしょう。

 

発酵阻害物質の効果抑制

小麦粉には微量の発酵阻害物質「ピュロチオニン」が含まれています。

塩はこの物質の効果を抑制する作用もあるため、後ほど述べる発酵抑制機能が働く一方では発酵の邪魔者を成敗してくれるという、プラスマイナス両方の働きを担っているとも言えます。

(「お前を倒すのはこの俺だ。つまんねぇ相手に負けてんじゃねえ」って言いながら助けてくれるライバルキャラ、そんな感じのイメージがわかりやすいかと思います)

塩がパンに与えるマイナスの効果

発酵力の低下

塩の抗菌作用によって酵母菌の発酵力は低下してしまいます。

そもそもこれは塩の使用による浸透圧の上昇が大きく関わってきます。

砂糖を多量に使用する場合も浸透圧上昇によって発酵が阻害されますが、塩と砂糖では浸透圧の上昇率が段違いで、同じ使用量でも砂糖の12倍の浸透圧上昇が発生します。

パン作り 塩 役割

だからパン作りでは塩の量が多くてもせいぜい2%程度(対粉)なのです。

菓子パン生地では塩の量が食パンの半分に制限されるのも、多量の砂糖で発酵が阻害されてしまうため塩を減らさざるを得ないからです。

 

必要ミキシング時間が長くなる

パン作り 塩 効果

パン生地を作る際、塩を最初から加えると生地の完成が遅くなりミキシングの必要時間が長くなります。

これは粉より先に塩が水を吸って結合することで、水の一部を結合水にしてしまうことが原因です。

グルテン形成に必要な自由水が塩に奪われ減ってしまうということです。

これは砂糖でも同じ現象がありますが、塩や砂糖に結合してしまった結合水は酵母菌の活動やグルテン形成など他の現象に使うことが出来なくなります

なので、実は塩と砂糖を最初から入れずに後から加えることで捏ね時間は短縮されます。

ただし業務用ミキサーでの製造では捏ね時間が長くなることはむしろメリットとして働きます。

生地の完成が遅くなるということは、生地の変化が緩やかになるとも言えます。

つまり、ミキシング終了のベストタイミングであるストライクゾーンもすこし広くなるということです。こね具合の見極めで差が出にくくなるのは均一な製品を作る上ではメリットですね。

塩の量はどのくらいが最適?割合の目安

作るパンの種類やレシピによって最適な量は変わってきます。

塩だけでなく砂糖の量による浸透圧上昇で発酵力が低下してしまうからです。

ですが無糖のフランスパン生地から砂糖6%程度の食パン生地までなら一般的に食塩2%が最適です。

一方で砂糖25%配合の菓子パン生地では食塩0.8%~1%まで減らす必要があります。

砂糖の量が増えるほど塩を徐々に減らす必要があるということです。

※無糖生地で水分量が多い場合などで食塩2.2%といった微妙に多い配合となるレシピもあります。

 

パン作りに向いている塩は?

パン作りにおすすめの塩

パン作りにおいて多くてたったの2%ほどしか使わない塩は、その種類が何であろうと実際に焼きあがるパンにはほとんど違いは現れません。

なので、生地に練り込む用の塩としてのおすすめはとにかく使いやすいものです。

粒子が細かく溶けやすい、ごく一般的な食塩がオススメです。価格も安く一石二鳥ですね。

一方でベーカリーで人気があるのは沖縄の「シママース」という塩です。

別にコレを使ったからといってパンが劇的に美味しくなるような魔法のアイテムではありませんが、使っているシェフはかなり多い印象です。

普通の食塩を使うよりも、「当店で使用しているのは沖縄の天日塩で…」という肩書があった方が健康意識が高い人に対する訴求効果が見込める!との狙いでチョイスしている人も中にはいます。

とにかく味はほとんど変わらないので、普段の料理でお使いの塩をパンでも使うスタンスで問題ないでしょう。

ただし、一つだけ注意点があります。

 

使う前に注意が必要な塩

塩によっては通常の食塩と塩分量が全然異なる商品があります。

極端な例を挙げると、沖縄の「粟国の塩」は食塩相当量71.6%です。

もし、粉100% 食塩2%のレシピにおいて同じ量で作ってしまうと、実際の塩分量は1.43%しか配合できていないことになります。

これだと味・発酵力・生地感に大きく影響してしまいます。

なので、普通の食塩ではないものを使うのであれば、その商品の食塩相当量を確認し、塩分量が同じになるよう換算する必要があります。

粟国の塩なら

「2%÷0.716=2.79%」

この計算式で使用量を換算します。2.79%の配合に直せば、食塩2%分の塩分になるということですね。

 

トッピングに使う塩は使い分けの効果アリ

パン作り 塩 おすすめ

塩バターパンにのせる塩など、トッピングとして塩を使う場合には種類で味わいが大きく変わるので、慎重に吟味することをオススメします。

粒度の大きい岩塩を数粒のせるのがオシャレだという風潮もありますが、塩の塊を食べるようなものなので「ガリッ」と噛んだ時のしょっぱさがキツイと感じる人も中にはいます。

逆に粒度の細かいサラサラな岩塩を万遍なく振りかければ味わいが均一になりそのような懸念は回避できますが、見た目的にも食感的にも面白味に欠けます。

使う生地との相性もあるでしょう、一番しっくりくる塩を探し当てるためにある程度の吟味は必要かと思います。

 

塩の代わりになるものは?

残念ながらパン作りにおいて塩の代わりとして同じ効果が得られるものはありません。

塩は「天然の製パン改良剤」と言われるほどその効果は多岐にわたるので、同じようなパンを作るために何かで代用できるようなものではないのです。

 

イタリアには伝統的な塩なしパンがある

パン 塩なし

イタリア・トスカーナ地方の塩なしパン

例外としてイタリアには伝統的な塩なしパン「パーネ・トスカーノ」があります。

このパンは本場では味の濃い料理と合わせて食べることが前提で、パン単体で食べることは基本的には無いため商品として成り立っています。

その代わり本当に美味しく作るためには塩なしによるデメリットを最大限補うための様々な工夫が必要となるため、レシピ作りや工程管理の難易度は高いと言えます。