移転しました。
約3秒後に自動的にリダイレクトします。
パン作りでスキムミルクを入れる理由
スキムミルク(脱脂粉乳)は、パン作りにおいて必須材料ではありません。
ですがパン生地の中で科学的に様々な効果を与えるので、風味以外にもその役割は多岐にわたります。
ここではスキムミルクなどの乳製品がパン作りでどんな役割を担っているのかがわかるように、効果をプラスとマイナスに分けて解説します。
乳製品がパンに与えるプラスの効果
栄養価の改善
小麦粉は必須アミノ酸の「リジン」が最も不足しているせいで、アミノ酸組成バランスが悪く体の中でたんぱく質が有効活用されにくい食品です(アミノ酸スコアが低い)。
スキムミルクをはじめとした乳製品にはリジンが豊富に含まれているため、必須アミノ酸のバランスが改善されパンとしての栄養価が高まります。
今の時代はパン以外で栄養価を考えれば特に問題になりませんが、戦後の日本ではいかに効率よく国民の栄養価を改善するかが急務だった故、配給のコッペパンに脱脂粉乳が配合されているかどうかというのは重要なポイントでした。
焼き色の向上
スキムミルクや牛乳などに含まれている「乳糖」という糖分は、酵母菌の呼吸・発酵活動では消費できない糖分です。
そのため焼成直前まで生地に残り続け、焼き色の向上に寄与します。
仮に発酵オーバーで生地中の糖分を使い果たしてしまっても、乳糖が含まれていればその分は最低限の焼き色として保証されると言えます。
風味の改善
乳製品としてのミルキーな風味を加えるだけではありません。
先ほどの項目で乳糖は発酵で使われず生地に残り焼き色を向上するとお伝えしましたが、まったく同じ理由で風味の改善が期待できます。
そもそもパンの焼き色というのは、糖分とアミノ酸が結合するメイラード反応によるところが大きいです。
焼き色の向上も結局はメイラード反応によるものなのですが、メイラード反応では香り成分も生成されます。
パン屋さんのそばを通った時に香る美味しそうなパンの香り、あれはオーブンからあふれるメイラード反応の香りが多くを占めています。
生地中に糖分が残り、焼き色と同時に香りも向上する。これが乳製品による風味改善の仕組みです。
乳製品がパンに与えるマイナスの効果
生地を硬くする
スキムミルクは固形分であり、小麦粉と同様に水を吸う能力があります。
そのため同じ水分量で生地を作るとスキムミルク無しの生地より少し硬くなります。
生地が硬いということは、内側からのガス発生に対する抵抗が強いということですので発酵時の膨らみにくさに影響します。
(新品の硬い風船は膨らませにくいけど、少し手で伸ばして柔らかくすると膨らませやすいですよね?それをイメージするとわかりやすいです。
また、グルテンを引き締めることによる硬さではなく単に生地が硬くなるだけなので、しなやかさに劣りガス保持力も少し低下します。
そういった理由から最終的な焼き上がりのボリュームも劣る傾向があります。
スキムミルクの代わりに牛乳で作ったとしても、牛乳にも固形分が含まれているので同様の影響が見られます。
発酵を遅くする
乳製品を使うと生地の発酵が遅くなります。
これは先程説明した生地が硬くなることによる膨らみにくさも原因の一つですが、もう一つ重要な原因として「pHの緩衝作用」があります。
乳製品を使うと生地のpHが変化しにくくなるのです。
本来パン生地というのは工程を通して徐々にpHが弱酸性に傾いていくものです。
酵母菌の発酵により生じた二酸化炭素が生地中水分に溶け込んだり、粉に付着していた乳酸菌が生成する乳酸などによってpHが低下します。
そして生地pHが弱酸性になるほど酵母菌の活性が高まるため、発酵力は時間経過と共に強くなっていくのです。
ところが乳製品はそのようなpHの変化を緩やかにしてしまうため、発酵力の向上が抑えられてしまいます。
生地の完成が遅くなる
スキムミルクなどの乳製品を使うと、使わない時と比べて捏ね時間が少し長く必要になります。
乳製品に含まれる固形分はパン生地の中ではグルテン形成の邪魔物になるため、生地の完成が遅くなるからです。
乳製品に限らずあらゆる食材の固形分は生地の中では邪魔物となります。
乳固形分は粒子がとても細かいから最終的にはあまり問題にならないだけで、実際やってることはクルミやレーズンなどの具材を捏ね始めから入れるのと同じことなのです。
パン作りに使う様々な乳製品と特徴
スキムミルク(脱脂粉乳)
牛乳から脂肪分を抜いた脱脂乳を乾燥・粉末化したもの。
保存性と使い勝手が良いため製パン業界で最もよく使われる乳製品です。
牛乳で作ったパンとの違いは、微妙な差ですが風味があっさりとしていて主張が弱い点です。
微妙な差ゆえにスキムミルクと牛乳は互いに代用が可能です。詳しくはもう少し下の項目で解説しています。
全粉乳
こちらはスキムミルクと違って乳脂肪も含んだ粉乳です。
全粉乳と水を12:88(わかりやすく粉13gに水90g)の割合で溶かせば成分的には牛乳と同じになります。
乳脂肪がそのまま残っているため風味の点でも牛乳とほとんど同じ再現が可能です。
一つ注意点があるとするなら、スキムミルクの代用として使うと脂肪分をミキシングの最初から入れることに繋がりますので、生地の繋がりが阻害されて捏ね時間が多少長く必要になります。
そこさえ調整できれば十分に良い生地が作れます。
バターミルクパウダー
バターミルクを乾燥させ粉末にしたものです。
バターミルクとは、バターの製造過程で得られる脱脂乳のようなものです。
とはいえスキムミルクよりは乳脂肪が少し残っており、風味もバターのようなミルキーさがあります。
こちらもスキムミルクの代用として使うことが可能です。
加糖練乳
原料乳に砂糖を加えて加熱・濃縮したもの。
そもそも牛乳の風味というのは加熱殺菌によるコゲ臭が元となっていると言われています(実際に低温殺菌牛乳は高温殺菌に比べて臭いが弱いですよね)。
つまり、ミルク風味というのは加熱により向上するということ。
加糖練乳は製造過程で十分な加熱が施されるためミルク風味が強く、あらゆる乳製品の中で最もパンにミルク風味を与えられると言われています。
ただし糖分と水分が含まれるため、元々練乳を使わないレシピに加える場合は砂糖と水の両方を配合調整しなければならないので、計算は面倒です。
とはいえ計算方法さえマスターしてしまえば、保存性も良く使い勝手が良いことから近年ベーカリーでの使用頻度が高まっている印象があります。
生クリーム(純乳脂)
生クリームとは、生乳を脱脂乳と脂肪分を含むクリーム層に分離した後に、クリームの部分を取り出したものです。
このクリーム層に乳脂肪以外の成分をどれだけ残すのかによって、異なる乳脂肪割合の生クリームがバリエーションとして出来上がります。
生クリームは液体なのでミキシングの最初から入れられることになりますが、脂肪分が多いためグルテン形成が阻害されて捏ね時間が長く必要になります(他の乳製品と比べ物になりません)。
ですが、バターでは得られない澄んだコクと濃厚なミルク風味が得られるため、他では代用し難い唯一無二の食材と言っても過言ではありません。
パン作りで使う際には、生クリームに含まれる水分と脂肪分から仕込み水と油脂の量を調節する必要があるため、計算は面倒です。
全国にブームを巻き起こした高級食パン専門店では、多くのブランドで生クリームが多量に配合されています。
スキムミルクはどれだけパンに効果を及ぼすのか?
スキムミルクなしで作るとどうなる?
もしスキムミルクを使う指示があるレシピであっても、最悪なしで作ってもパンは問題なく作れます。
というのもスキムミルクには発酵や生地の物理性に対してプラスに働く効果が無いからです。
ですが、スキムミルクの効果である「焼き色の向上」と「風味の向上」が得られなくなるため、少し焼き色と風味が薄まる仕上がりとなります。
実際にスキムミルク有り無しで作り比べた結果を、こちらの動画で詳しくご覧になれます。
スキムミルクを大量に入れるとどうなる?
「スキムミルクを大量に使えば、牛乳をも超えるミルク風味が得られるのでは?」
そう思って通常ではありえない量のスキムミルクを使ってパンを作ってみたことがあります。
ですが、スキムミルク自体がそんなにミルク風味が強いわけではないので、パンの風味は期待するほどのミルキーな印象にはなりませんでした。
それよりも、発酵が著しく遅くなったり生地が変に硬かったり、マイナスの効果が非常に目立つ結果となりました。
もしパンにミルキーな風味を与えたいのであれば、生クリームや練乳といった素材を検討した方が理想に近づくでしょう。
スキムミルクと牛乳の違い
スキムミルクと牛乳は相互に代用が可能です。
とはいえ全く同じというわけではありません。
スキムミルクの別名は脱脂粉乳で、読んで字のごとく乳脂肪を脱した粉ミルクです。
牛乳は低脂肪乳や無脂肪乳でなければ乳脂肪が含まれています。
乳脂肪の有無は焼き上がったパンのミルク風味に微妙な違いをもたらします。
こちらの動画でスキムミルクと牛乳の違いが詳しくご覧になれます。
牛乳をスキムミルクに置き換える方法
もし牛乳100gを使用する場合、スキムミルク10g+水90gで代用可能です。
つまり、スキムミルクと水を1:9の割合で使えば良いという事です。
全く同じ風味になるわけではありませんが、何も言われずに食べさせられても言い当てられないくらいのわずかな差です。
もし普段あまり牛乳を買わないし飲まない人は、あらゆるレシピで牛乳をスキムミルクで代用してもらって構いません。
スキムミルクを牛乳に置き換える方法
逆にスキムミルクを用意できない場合は牛乳で代用することも可能です。
その場合の例を挙げます。
スキムミルク3g 水70g のレシピの場合…
スキムミルク3g→牛乳30gに変換(10倍量)
牛乳30gに含まれる水分は26.4gのため、
水70g-26.4g=43.6g
結果、牛乳30g 水43.6g で作ればいいという事です。
スキムミルク使用上の注意点
スキムミルクは吸湿性が高く、そして非常にダマになりやすい食材です。
計量後放置するとすぐダマになるので、なるべく早めに砂糖や小麦粉などと混ぜ合わせておきましょう。
計量後すぐ捏ねるからといって小麦粉や砂糖などと混ぜ合わせないのも危険です。
仕込み水を投入した際にスキムミルクが一気に水を吸ってしまってダマになってしまう可能性が高いからです。
生地の中でダマとして存在するスキムミルクを分散させるのは困難です。
やはり粉物としっかり混ぜ合わせておくことをオススメします。