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パン作りにおける砂糖の役割
パン作りで砂糖を入れる理由は甘味を加える事だけではありません。
パン生地の中で砂糖がどんな役割を果たすのか、プラスの効果とマイナスの効果に分けてそれぞれ解説します。
砂糖がパンに与えるプラスの効果
甘味の向上
最もわかりやすいのが甘味向上効果ですね。
ですが砂糖を加えれば必ずパンが甘く感じられるかというと、そうではありません。
食パンタイプで比較しても砂糖10%(対粉)までなら「甘い」と感じる人は少なく、「コクがある」とか「濃厚な味わい」と表現する人が多いそうです。
12%を超えたあたりからようやく「この食パンは甘い」という感想を抱く人が増えるとのこと。
ですが、砂糖25%配合の菓子パン生地を使ったあんぱんを食べて「この生地甘すぎっ!」と感じるかというと、それも違います。
菓子パン生地単体で焼いたロールパンを食べるのと、あんぱんやクリームパンとして食べるのでは、生地の甘味の感じ方に差が出るように感じます。
パン生地の甘味は何パンとして食べるのか、何と一緒に食べるのか等、シチュエーション次第で如何様にも変化するということ、あまり意識される機会が無いけど非常に重要な考え方ですので頭に入れておきましょう。
酵母菌のエサとなる
酵母菌の呼吸・発酵には糖分が欠かせません。
砂糖を加えれば酵母菌のエサとして活用できます。
フランスパンなど砂糖を加えないパンの場合、そのままでは酵母菌が活動するための糖分がほとんど無いのですが、小麦粉やモルト等に含まれる「でんぷん分解酵素」の力を使って小麦粉のでんぷんを麦芽糖に分解することで、酵母菌活動に必要な糖分を確保します。
このように酵素の力で糖分を生成するパン作りにおいては、糖分生成のスピードと酵母菌の糖分消費のスピードを足並み合わせなければいけません。
だからフランスパンのレシピはイースト量が少ないのです。
一方で砂糖を加えて作るパンであれば、酵素の仕事に頼らずとも酵母菌のエサに困らないので、イーストの量を多くして短時間でパンを作ることが可能です。
これが砂糖をパンに入れるか入れないかの最大の違いと言っても過言ではないでしょう。
パンのパサつき(老化)防止
砂糖には吸湿性があります。
砂糖を入れたパンは水分の蒸発が抑えられ、パンのしっとり感が長く持続します。
菓子パンのように砂糖が多量に配合されたパンは、日にちが経っても柔らかくパサつきにくいですよね。焼いた日と翌日の製品ギャップが少ないと言えます。
一方で無糖のフランスパンは焼き立てと翌日では食感やパサつきなど製品ギャップが非常に大きいですね。これは砂糖が全く入っていないことによるところが大きいです。
生地の伸びが良くなる
砂糖を配合したパン生地は、砂糖を入れない生地に比べて伸展性が向上します。
生地の伸展性が向上することによって、
- 焼成時の膨らみ(窯伸び)が大きくなる
- より手の込んだ成型がしやすくなる
- 機械耐性が向上する(≒生地が傷みにくい)
などの利点が得られます。
パンの歯切れを良くする
砂糖の配合量を増やすほど、パンの歯切れが良くなります。
砂糖を全く入れないフランスパンよりも少量入れる食パンの方が歯切れは良いですし、食パンよりも砂糖を多量に入れるあんぱんなどの菓子パンの方が圧倒的に歯切れが良いですよね。
これは砂糖の量によるところが大きいです。
菓子パンを作る際に糖分控えめにしたいからと言って安易に生地の砂糖量を減らすことは、歯切れの悪化につながるため他の材料や製法の吟味で食感を調整する必要があります。
冷凍耐性が向上する
砂糖を多く配合したパン生地ほど、冷凍生地としての保存性が向上します。
冷凍生地を多用するチェーンのベーカリーでもフランスパンなどのハード系はスクラッチ製法(現場で生地を作る)が採用されるのは、無糖生地が冷凍生地向きではないことが大きな原因です。
ですが砂糖を3%ほど配合したソフトフランス生地であれば、冷凍生地として存分に活用することができます。
砂糖がパンに与えるマイナスの効果
グルテン形成を阻害する
砂糖の量を増やせば増やすほど、ミキシングにおける生地のグルテン形成が阻害されるため、捏ね時間がより長く必要になります。
これは小麦粉のたんぱく質よりも砂糖の方が先に水分を吸収してしまうことで、グルテン形成に必要な水分がたんぱく質に浸透するまで時間がかかることが大きな理由です。
特に砂糖を25%と多く使用する菓子パン生地では十分なミキシング時間が必要となり、手ごねで作るのはべたつきが強く難易度が高いです。
手ごねで菓子パン生地を作る場合は「加糖中種法」を採用することで捏ねの大変さを軽減することが期待できます。
生地のコシが弱くなる
砂糖を多く配合するほどパン生地の伸展性が向上する分、コシが弱くなります。
そのため菓子パンのように多糖の生地は上に膨らむ力が弱く、どちらかというと横に大きく膨らみます。
型に入れて上に大きく膨らませたい食パンタイプには不向きと言えます。
多量配合で発酵を阻害する
砂糖は酵母菌の呼吸・発酵における栄養源となるため、適量であれば発酵促進効果が見込めますが、それを過ぎると発酵を阻害してしまいます。
これは浸透圧の急上昇による影響です。
果物に砂糖をまぶしたり野菜に塩をまぶしたりすると水分が出てきますよね?
パン生地の場合は酵母菌の細胞内から水分が抜かれてしまうことで活性が低下します。
(ナメクジに塩をかけると小さくなるのも、水分が抜かれることによるものです)
べた付き
砂糖を多くするほど生地はベタつきが強くなります。
グルテン形成を阻害するから、という理由も一理ありますが、たとえ十分にグルテン形成できたとしてもベタつきは増します。
そもそも生地の中で砂糖は水に溶けます。すると生地中に砂糖水が含まれているのと同じことです。
ジュースをこぼすと床がべた付きますよね?
砂糖そのものがベタベタする性質があるから、当然のごとくパン生地に砂糖が多ければべた付きも強くなるという事です。
目安としては砂糖5%(対粉)の増加で仕込み水は1%減らす必要があると言われています。
パン作りに使う砂糖の種類
上白糖
上白糖は日本のパン業界では最もポピュラーな砂糖です。
上白糖は主成分であるショ糖(97.8%)のほかに「転化糖(1.3%)」が含まれています。
ショ糖はブドウ糖と果糖がくっついた状態で存在する「二糖類」であるのに対して、転化糖とはブドウ糖・果糖そのもののことです。くっついておらず単体で存在する「単糖類」です。
単糖類は二糖類よりも吸湿性が高く、それが上白糖のしっとり感に寄与しています。
パン作りにおいてもその吸湿性による保湿を期待して使われることが多いです。
加えて焼き色も二糖類より単糖類の方が濃くなるため、それを見込んでの使用もあるでしょう。
※しかしこれはあくまでも理論上の話であって、たかだか1.3%の転化糖では体感できるほどの違いは得られません。日本ではグラニュー糖より安価で手に入るというのが、パン業界で使われる最も大きな理由だと考えています。
グラニュー糖
海外では上白糖よりもグラニュー糖がパン作りでポピュラーに使われています。
グラニュー糖は砂糖の中でもショ糖純度が最も高い99.95%です。
日本ではパン生地ではなくメロンパンのクッキー生地やカスタードなど、具材などで使われることが多いです。
上白糖のようにしっとりとした質感ではなくザラっとしているので、サクみのある生地を作りたい場合にパン生地でも使われることがあります。
※ですが実際にはパン生地内部でグラニュー糖は完全に溶けるので、上白糖とそこまで出来上がりに差がありません。
三温糖
三温糖とは、簡単に言うと上白糖の製造過程で余った糖液を更に煮詰めて作った砂糖です。
上白糖やグラニュー糖と同じ精製糖のためミネラルなどはさほど含んでいませんが、煮詰める過程が増えることでカラメル化が進み色が付いています。
同じ精製糖でもカラメル化による香り成分が加わるため、コクのある砂糖として知られています。
ところでパンの焼き色の元となる化学反応はメイラード反応とカラメル化の二つです。
どちらも焼き色と香りに影響を及ぼす反応ですが、三温糖を使うということはパンにカラメル化反応の色味や香りを最初から付与することに繋がります。
※とはいえ実際に体感できるほどの違いがあるかというと、正直そこまではありません。
ショ糖純度はメーカーや商品によって差があるようですが基本的には96%前後で、転化糖も2%ほど加えられることが多いようです。
確かに上白糖と同じくらいしっとり感のある砂糖ですよね。
きび砂糖
きび砂糖は上記3つの精製糖とは違い、精製の途中で煮詰めて作られる砂糖です。
つまり、完全には精製されていないためミネラルを多く含み、さとうきび本来の風味が残っています。
このタイプの砂糖にはきび砂糖の他にも赤糖や素焚糖など様々な商品名のものがあり、それぞれでショ糖純度やミネラルの割合は微妙に異なってきます。
パン生地の材料として使う分には甘味の感じ方にほんの少し差を感じる場面もありますが、「これはきび砂糖で作ったね?」と言い当てられるほどのハッキリとした違いはありません。
砂糖高配合の菓子パン生地の焼きたてスグなら香りの違いを感じ取れるぐらいです。
一方でメロンパンのクッキー生地やカスタードクリームなど、具材で使うとかなり違いがハッキリします。ですが全量代用すれば味が良くなるというわけではなく、きび砂糖の個性が強く出てしまい全くの別物になってしまうため注意が必要です。
ベーカリーでは風味の変化を信じて使われることもありますが、「きび砂糖使用」と謳うだけで健康イメージが付与されるため、普段のお料理でもきび砂糖を使うような健康意識高めの人に対する訴求効果向上を狙う目的で使われる場合もあります。
砂糖の代わりにラカントは使える?
ラカントはエリスリトールという「糖アルコール」と「ラカンカエキス(甘味成分はテルペングリコシド配糖体)」で作られた甘味料です。
どちらも糖分としては吸収されず尿として排出される成分のため、砂糖と同じ甘味度を持ちながらもカロリーゼロです。
ですが人間の体が糖分として利用できないのと同じように、微生物にとっても糖として利用できないため、パン生地の材料として砂糖の代用でラカントを使用すると酵母菌の栄養源が途中で不足してしまい発酵力が低下します。
酵母菌の目線だと砂糖をラカントに変えるというのは無糖生地に変えるのとほぼ同じことなのです。
それだけでなく、焼き色や風味への影響もあります。
パンの焼き色と風味の元となるのは「メイラード反応」という化学反応ですが、これは糖分とアミノ酸が結合することで発生する反応です。
エリスリトールは砂糖と違ってメイラード反応の原因にならないため、パンらしい焼き色と香りでも劣ってしまうことになります。
パン作りで砂糖をラカントに代用する方法
ラカントを使ってパンを作りたいなら、砂糖の全量を置き換えるのではなく2~3%(対粉)は砂糖のままにして残りをラカントに置き換えることをオススメします。
粉100% 砂糖12%のレシピの場合、粉100% 砂糖2% ラカント10%にする、みたいな感じです。
さらに、メイラード反応が弱まることも補うにはスキムミルクなどの乳製品を増量することをオススメします。
ただし乳製品も発酵力を少し低下させる傾向があるため、増やす量によっては工程の調整が必要です。
10%ほどのヨーグルトを使って生地を弱酸性にもっていき酵母菌の活性を高めるのも一つの手です。ヨーグルトは乳製品の中でもメイラード反応向上効果が高いため一石二鳥です。
パン作りに使う砂糖の選び方
砂糖の違いを比較してみた
上白糖・グラニュー糖・きび砂糖で同じ配合のパンを作り比べてみても、微妙な違いはなんとなく感じられるもののハッキリとした差は感じられませんでした。
そのため、パン生地作りに使う砂糖に関してはどれを使っても問題ありません。
普段お家で常備しているメインの砂糖をそのまま使う、という考え方で良いでしょう。
ただし、クリームなど具材に使う場合やトッピングに使用する場合はその差が大きく表れるので使い分けることをオススメします。
選び方の例ですが、
- カスタードクリームは純粋に卵やミルクの風味を邪魔したくないので上白糖(又はグラニュー糖)を。
- メロンパンのクッキー生地はサクみとクリアな甘さが欲しいならグラニュー糖を、あえて優しく個性的な味わいを表現したいならきび砂糖のブレンドを試す。
- トッピングシュガーで優しい甘味と濃い風味を付与したいならきび砂糖を、他の素材の風味をより際立たせたいならグラニュー糖など白砂糖を。
といった具合に、使う目的を十分に考えた上でその目的を達成できる砂糖はどれか考えて選ぶと成功への近道になるでしょう。
砂糖の分量はどのくらいが適量?
作りたいパンの種類やどんなパンにしたいのかによってベストな砂糖の分量は違ってきます。
甘味だけでなく食感にも大きく影響を及ぼす材料ですので、「甘いのが好き」とか「甘さ控えめが好き」といった好き嫌いだけで砂糖の量だけを変えるのはオススメしません。
砂糖の分量を変えれば他の材料も一緒に分量調節する必要がありますので、パンのレシピを自分なりに上手にアレンジしてみたい方はこちらの動画を必ずご覧ください!
発酵促進効果が最も高い砂糖の量は?
砂糖は多すぎず適量であれば発酵促進効果が見込めますが、どのくらいまでなら大丈夫でどこからがアウトなのでしょうか?
これは使うイースト(酵母)の個性よって大きく変わるため一概に数値を提示することは難しいですが、砂糖3~8%の範囲であれば発酵に対してプラスに影響すると言われることが多いです。
12%以上だと例え耐糖性であっても徐々に発酵阻害の影響が大きくなっていくと言われることが多いです。
2023/04/22
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)