こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
アルカリイオン水でパン作りをしたことありますか?
「アルカリイオン水でパンは作れない」
なんて聞いたことある方いるかもしれませんが、それは大きな間違いです。
とはいえパンに使うと水道水とどのような違いが現れるのか、その情報はあまり出回っていません。
今回はパン作りの中で最もシンプルなフランスパンをアルカリイオン水で作ることで、その効果の実態を検証してみました。
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検証を試みた経緯
「アルカリイオン水は酵母菌の活動が鈍るpHであるため製パンには向かない」
製パン業界ではこのように言われてきていましたが、近年アルカリイオン水を用いた高級食パン店の台頭によりその言い伝えの信ぴょう性が揺らいだことがキッカケです。
実際にアルカリイオン水を使うことは通常の水を使う場合に比べて明らかな違いがあり、それでもしっかりパンが作れることは証明されています。
しかし、アルカリイオン水を使ったパンはどれもリッチな配合のパンばかりで、
「副材料の無いパンでも作れるのか?」
という疑問から今回フランスパンでの検証を行いました。
副材料が含まれないパンは誤魔化しが効きません。フランスパンもアルカリイオン水で作ることが出来れば「製パンに向かない」という表現も見直さなければなりません。
アルカリイオン水で作る際の注意点
アルカリイオン水で仕込んだ生地は緩みやすいという特徴があります。
pHはグルテンの締まり具合に影響を与えます。酸性になるほどグルテンは締まりが強くなり、反対にアルカリ性になるほど締まりが弱くなるのです。
短時間で生地が緩む上に、酵母の発酵力も劣る。十分な膨らみが得られる前に生地が緩んでしまう可能性が考えられますね。
加えて市販されているアルカリイオン水は軟水です。
フランスパン作りにおいては、ミネラル分が豊富に含まれる硬水を使うことで、生地のコシを補い熟成も促すことが美味しさの秘訣でもあります。
水の硬度という点でも生地は緩みやすくなっている。
(硬水が生地に与える影響はこちらの記事で詳しく解説しています)
生地が緩みすぎてしまうと、腰高の綺麗な製品にはなり得ない。
なので、塩を多めに入れることで生地のコシを補うことにしました。
今回チョイスしたヒマラヤピンク岩塩は、見た目がピンクでミネラル豊富なイメージがありますが、実は食塩相当量は普通の食塩とそこまで変わりません。
もし、特殊な海水塩など塩分以外のミネラルが多い塩をチョイスして更に多めの配合にすれば、生地のコシはもちろん発酵熟成の補助作用も得られて微妙に美味しくなる可能性もあります。
(ただし、特にフランスパンでは個性的な塩を使うとニガリの味が気になるという意見もあるため一概には言えません)
~~材料はこちら~~
配合(2本分)
材料 | BP(%) | 重量(g) |
---|---|---|
リスドォル | 100 | 200 |
インスタントドライイースト赤 | 0.5 | 1 |
アルカリイオン水 | 68 | 136 |
ヒマラヤピンク岩塩 | 2.2 | 4.4 |
合計 |
~~レシピの意図と注意点~~
- まずは検証としてしっかり捏ねて作る。
- アルカリイオン水を使うと弱酸性の生地に比べて焼き色が付きにくいため、高めの温度で予熱し焼成する。 (下記参照)
~~作り方はこちら~~
計量・下処理
- アルカリイオン水にイーストを溶かし、粉と混ぜる。粉気がなくなる程度でOK。
- 45分休ませる。(オートリーズ)
ミキシング
- ケースに休ませた生地と塩を入れて12分ミキシング。
一次発酵・分割丸め・ベンチタイム
- 27℃ 60分の発酵。
- 生地を軽く引き伸ばすように正方形に伸ばして三つ折り、さらに90℃向きを変えて三つ折り。(手のひらで生地を潰すように伸ばすのはNG。気泡はそのまま残すイメージ)
- 27℃ 60分の発酵(2回目)。
- 2.と同じことをする。
- 27℃ 60分の発酵(3回目)。
- 生地を2等分にする。この時、やや長方形のような形になるよう意識してカットする。そのため分割前に軽く生地を引き伸ばすとやりやすい。
- 丸めをする。といってもフランスパンの場合は丸くせずに、生地を三つ折りにして軽〜く表面を張らせるだけ。この時も気泡は残すイメージで。
- 15分のベンチタイムをとる。
成型・二次発酵
- 生地を縦方向に置いて、上1/3を折り込む。
- 下1/3も同様に折り込む。この時、下からそのまま折り込むよりも、一旦180℃向きを変えて上から折り込むほうがやりやすい。
- さらに上1/3を折り込む。この時、親指で生地を押し込みつつ人差し指と中指で生地をめくることで表面にハリを持たせることが出来る。
- 最後に3.と同様のやり方で生地を折り込んで棒状にする。閉じ目は右手付け根を使うと良い。
- 生地全体に手粉をつけておく。
- キャンバスに生地を乗せて32℃ 60分の二次発酵。
焼成前加工・焼成
- オーブンは天板ごと260℃に予熱。予め庫内にスチームを充満させておく。
- 生地にクープを入れ、念のためオイルを切込みに垂らす。
- 240℃ 20分の焼成。
どんなパンに焼きあがったか
生地感について
塩を多めに配合したおかげか、生地感については特に何の問題もなく、通常のフランスパン生地を触っている感覚でした。
発酵スピードもそれほど遅くもならず、順調でした。
アルカリイオン水でフランスパン生地を作るのが初の試みだったので、何かあったら困るからと水分量をあえて控えめに作ってみましたが、そこまで心配する必要はありませんでした。
食感について
同じ配合を水道水で作ると、冷めた時の引きが強く噛みちぎりにくい、皆さんがよく想像する「フランスパン=硬いパン」という感じになるでしょう。
そこそこ捏ねて作った何の工夫もない工程のフランスパンなので、なおさらです。
しかし、アルカリイオン水の効果で引きが弱く歯切れのいい食べやすいパンになりました。
僕は普通のフランスパンをトーストして食べると、ほぼ毎回と言っていいほど口の中を怪我するのですが、今回作ったアルカリパンはトーストしても明らかに歯切れが良いため、とても食べやすかったです。
そして口溶けも良好でした。口の中で唾液とよく混ざるとスッと消えるような…水道水のフランスパンでは成しえない食感でした。
味について
正直、このレシピだとバゲット単体では物足りないというか、淡白すぎる印象でした。
というのも、今まで高級食パンや普通食パンなどでアルカリ製パンを長くやってきて身に染みてわかっていることなんですが、アルカリイオン水で作るパンは味わい・風味がとってもクリアーな印象なんです。
どうクリアーなのかと言うと、発酵臭が少なく素材そのものの風味が際立つ。
銀座に志かわの高級食パンを例にあげます。食べたことがある方はわかるかと思いますが、風味の大部分が生クリームや練乳といった「乳フレーバー」で、そこに甘さが加わるだけ。発酵臭が弱いのです。
ですがレシピを水道水に置き換えただけで、面白いくらい食感・風味・味すべてが馴染み深いパンらしい風味になるんです。
そして、どうやらフランスパンをアルカリイオン水で作った場合もこの「クリアー感」が如実に出てしまうようです。
フランスパンは材料がシンプル故に、素材が元から持っている風味はもちろん、いかに発酵で風味を芳醇にさせるかが大事です。
発酵風味が充実していないと、よほど素材にインパクトがないと奥行きの無いつまらない風味のパンに焼きあがってしまう。
今回のレシピと工程自体、元からシンプルなフランスパンになるものでしたが、アルカリイオン水によって更にシンプルになりすぎてしまいました。
主張は少ないけど必要な超脇役のようなパン
味に関してはとても厳しいことを書きましたが、それを帳消しにするくらい食感の食べやすさで良い印象を持ったことも事実。
主食は本来あまり主張しないものの方が、毎日食べるには飽きない上、メインディッシュの邪魔をしないからいいはずなんです。
ですが、最近のパン屋さんや家庭製パンをされる方々が目指すフランスパンは、味が濃くて風味も強い、主張の強いものであることが多い印象です。
今回検証で作ったフランスパンは、味の主張が薄いだけでなく歯切れよく食べやすいため、食感という観点からもどんな料理の邪魔にもならないという側面を持っています。
毎日の食事のオトモとしては、こういうのも大いにアリなんじゃないかなと思いました。
口の中を怪我しやすい人やご年配の方でも、比較的安心できるというのもメリットです。
(欲を言えば、もう少しくらい風味があってもいいかなとは思いますけど)
まとめ
総合的に見て、良くも悪くもやはりシンプルな配合のフランスパンでは、アルカリイオン水の影響を大きく反映することがわかりました。
これはこれで、上手く作ればフランスパンの新たなタイプとして何かできるんじゃないかという期待が生まれました。
次の機会には、粉の選定から発酵時間など、色々工夫してやってみたいと思います。
以上、アルカリイオン水でフランスパンを作ったらどうなるか?検証結果報告でした!
2023/05/11
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)