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こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
中種法に次いでよく使われる発酵種法の一種「ポーリッシュ法」。
使えば美味しくなる、ぐらいにしか認識していない人が多いですが、実際にはメリットもデメリットもあります。
ここではポーリッシュ法のメリット・デメリットや中種法との違いをはじめ、ネット上に転がっている液種法に関する誤解について解説します。
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ポーリッシュ法とは?製法の特徴を解説
別名「液種法(えきだねほう)」または「水種法(みずだねほう)」。
使う粉の一部を事前に酵母・水と混ぜ合わせて発酵熟成させ、その後に他の材料も加えて生地を作る製法で、「発酵種法」という分類の中の一つです。
中種は使う粉に対して少な目の水分で作るため硬い発酵種となりますが、ポーリッシュ種は粉と水の量は同量か、水の方が量が多くなるためシャバシャバな発酵種となります。
読んで字のごとく液状で水っぽい種を作ることから「液種法」「水種法」という名前が付いています。
ポーリッシュ法(液種法)でパンを作る効果
メリット① 味が濃くなる
ポーリッシュ法で作られたパンは味が濃くなる傾向があります。
それは何故かというと、ポーリッシュ種の作り方に秘訣があります。
基本的なポーリッシュ種は前日に粉と酵母と水を混ぜ合わせて、2時間以上は常温で発酵させてから冷蔵庫でオーバーナイト(一晩発酵)させます。
そして、水が多い種なので、酵素作用が活発になるため発酵も熟成も進みやすい。
この長時間の発酵熟成で、粉に元々含まれている酵素が粉のデンプンを麦芽糖に分解したり、タンパク質をアミノ酸まで分解することが期待できます。
麦芽糖が増えれば甘味が増し、アミノ酸が増えれば旨味が増します。
さらに、粉に付着していた乳酸菌の働きも少し期待できるため、乳酸などの生成によってより味わい深いパンとなります。
メリット② 発酵風味向上
こちらもメリット①と同様の理由で、事前にポーリッシュ種に長時間発酵によるアロマが生成されるので、ストレート法と比べて発酵風味豊かなパンになります。
メリット③ パンの保湿性向上
事前にポーリッシュ種を長時間寝かせておくことで、粉のデンプンが水をしっかり抱き込む「水和」が十分に進みます。
水和が進むスピードには水分量が大きく関わっていて、ポーリッシュ種は粉に対する水量が多いため、水和がよりスムーズに進みます。
中種法に比べると使う粉の割合が少ないため保湿性向上効果が圧倒的に少なそうなイメージがありますが、ポーリッシュ種は中種よりも水和が早く進む配合のためいい勝負と言えそうです。
メリット④ 伸びの良い生地になる
種の熟成がスムーズに進むため、生地のコシは弱くなりますがそれは伸びやすさが向上するとも言えます。
伸びにくい生地だと成形前のベンチタイムに時間がかかるし焼成前の二次発酵も長くしっかりとらないと窯伸びが悪くなりますが、伸びやすい生地はベンチタイムも二次発酵も短くできる傾向があります。
デメリット① 粉のフレッシュな風味は薄れる
これはポーリッシュ法に限らず中種法などその他発酵種法やオーバーナイト法に共通ですが、「発酵熟成」に重きを置いたパンほど、粉が本来持っているフレッシュな風味は薄れる傾向にあります。
実際にストレート法とポーリッシュ法の違いを作り比べたことがあるのですが、舌で感じる味わいはポーリッシュ法が優秀ですが、粉本来の香りはストレート法の方が残っている印象を感じられました。
デメリット② 工程が増える
単純に本生地を作る前にポーリッシュ種を仕込むという工程が増えるので、特に製造効率を重視するパン製造の現場ではそれ自体がデメリットになります。
また、ポーリッシュ種を常温発酵させるための場所やオーバーナイトさせるための冷蔵庫スペースを確保することも必要となるため、狭いパン屋さんでは大きなデメリットとなります。
デメリット③ 種の管理次第でクオリティに影響する
ポーリッシュ種は水分が多い故に、酵母菌はもちろんのこと他の菌の活動も活発になる恐れがあるとも言えます。
また使う粉の種類が違えば、酵素活性が異なる可能性があるため、熟成の進み具合に差が大きく出ることも考えられます。
種の酸味が出過ぎたり熟成が進みすぎたりすれば、当然それは本生地に影響します。
イーストを使う基本的なレシピであれば、清潔にレシピ通り作れば大きな失敗は無いでしょう。
ですが、それよりイーストの少ない種にしたり、本生地作成を翌々日に回す場合など、レシピと異なることをやるのであればその辺の注意が必要となってきます。
デメリット④ 本生地がデリケートになりがち
ポーリッシュ種は水が多い配合のため、普通のパン生地や中種と違い、種を作る際のグルテン形成が進みにくいです。
これは、高加水パンのミキシングでも同様のことが言えるのですが、緩い生地ほど生地にかかる圧力が弱まるためです。
また、ポーリッシュ種の場合はそれに加えて熟成が進みやすいことも影響しています。
大してグルテン形成が進まないのに、酵素活性は強くデンプンやタンパク質の分解は進むため、本捏ねをする時には生地の骨格や壁となる物質が少しだけ減っていると言えます。
中種法との違いは?
中種法もポーリッシュ法(液種法)も、どちらも事前に粉の一部を酵母と水と混ぜ合わせて発酵させるという点では非常に似ていますが、実際に出来上がるパンの特徴は大きく異なります。
使う粉や酵母の配合量などによって大きく変わってきますが、ごく一般的な中種法レシピで作った場合…
①味は濃くなりにくい
中種はポーリッシュ種に比べて水分量が少ないため、種の安定性は優秀ですが酵素活性は低いため熟成が進みづらいです。
ですが酵母は多く入れることが多いため、それだと粉に元々含まれている微量の糖分が消費され、熟成による麦芽糖の生成が酵母菌による糖分消費に間に合わず、甘みは増えないどころか減る恐れもあります。
その観点で見ればポーリッシュ法に比べて中種法は舌で感じられる味わいで劣ると言えます。
②生地は扱いやすく丈夫
ポーリッシュ法だと生地はデリケートになりますが、中種法はむしろ逆にストレート法よりも扱いやすく丈夫な生地となります。
中種は水分量が少ないため熟成が進みにくいこと、加えてポーリッシュ種より多くの粉を長時間寝かせるのでグルテン形成がより進み丈夫な生地を簡単に作ることが可能となるためです。
③発酵風味もそこまで深くならない
中種法は発酵風味が向上しそうなイメージがありますが、実際にはストレート法より風味が格段に良くなるようなことはありません。
発酵風味の向上という点ではポーリッシュ法の方が優れています。
ポーリッシュ種(液種)の作り方
液種に使う粉の割合はレシピによって10~30%と様々ですが、ここでは一般的な粉20%使用のポーリッシュ法を例にとって作り方を解説します。
- 強力粉 20%
- イースト 0.2%
- 水 24%
※イーストはインスタントドライイースト使用の場合の使用量。
※水は20~40%とレシピによって幅があります。
- 強力粉と水の温度を足して2で割った時に24℃になるよう水温を調整する。
- 水にイーストを振り入れて、しっかり溶かす。
- 強力粉と2を混ぜ合わせる。
- 粉気が無くなったら27℃で2時間発酵させる。(イースト割合で時間は変動します)
- 冷蔵庫で一晩(約15時間~)寝かせる。
器具の衛生状況や使う粉の酵素活性、イースト量によって保存できる期間は大きく変わってきますが、冷蔵庫の中でも最も良く冷える場所においておけば翌々日の使用でも問題なく作れます。
こちらの動画は粉量30%のポーリッシュ法レシピです。
ポーリッシュ種に使う粉の割合の目安は?
一般的には使う粉の20%の割合(内割)でポーリッシュ種を作ることが多いです。
もちろん決まりはないので必ず20%にする必要もありませんが、少なくすれば効果は薄まりますし、多くすればメリットが強まる分デメリットも強まるためコントロールや補いが難しくなってきます。
ポーリッシュ法にまつわる誤解に注意!
「捏ね時間が長く大変になる」は誤解
ポーリッシュ法の記述としてネット上では稀に「水分が多いから生地のまとまりに時間がかかるため、根気よく長く捏ねる必要がある」
と書かれることもありますが、これは大きな誤解です。
水分が多いのはあくまでポーリッシュ種であって、その分本捏ねでの水分量は調整されているはずです。
(逆に調整されていなかったらレシピが悪い)
また、「種の熟成が進んでいる分、ベタつくんだから捏ね時間も長くなる」という理屈で考える人もいますがこれも誤解。
生地感が同じ程度になるよう水分量調整されたレシピであれば、ポーリッシュ法だからといって捏ね時間はさほど変わりません。むしろポーリッシュ種でグルテン酸化が進んでいる分、理論上は短くできるくらいです。
もっと言うと、オーバーミキシングに気をつけるべきです。生地の完成が早まるということは、オーバーも早まることになります。
(といっても強力粉100%レシピで手ごねならオーバーミキシングまで捏ねるほうが難しいのでそこまで気にする必要はありません)
「水分を多くしてグルテンを壊す」は語弊かある
もう一つこのような記述も見られますが、多量の水分と粉を練り合わせたらグルテンが壊れるというわけではありません。
もちろん、たこ焼きのように圧倒的に水分が多い生地だと、練っても練ってもグルテン形成はほとんど期待できませんが、グルテンを壊しているわけではありません。
もし、多量の水分と粉を混ぜ合わせてグルテンが壊れるのだとしたら、パン・ド・ロデブなど様々な高加水パンは膨らまないはずです。ですがちゃんと膨らみますよね?
多量の水分と混ぜ合わせることがグルテンを壊すのではなく、水分が多いと酵素活性が高くなり、たんぱく質分解酵素がたんぱく質を分解しやすくなります。
その結果として、分解が進んだポーリッシュ種を使った本生地は通常よりベタつきが目立ちコシも弱くなるわけです。
とはいえ、使う粉次第で熟成の進み具合はピンキリです。通常の北米産強力粉などは酵素活性がかなり低いので、液種法でも正直そこまでデメリットは目立ちません。
2023/04/23
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)
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