こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
パン作りではまだ歴史は浅いけど、料理の世界においてはその効能が広く認知されているアルカリイオン水。
「お米を炊いたり野菜を茹でるのに使ったりすると良いんでしょ~?」
となんとなく知っている方は多いかと思いますが、パン作りに使うとどんな効果があるのか知らない方は多いはず。
今回はアルカリイオン水でパンを作ると普通の水と何が変わるのか、「基本の食パン」のレシピを使って検証解説します。
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コンセプト
アルカリイオン水による製パンへの影響をよりわかりやすく体感するために、いわゆる「ニコニコ配合」(BP%に2と5が点在する配合)で検証してみました。
~~検証に使ったレシピ~~
配合(1斤分 正方形)
材料 | BP(%) | 重量(g) |
---|---|---|
強力粉(カメリアなど) | 100 | 250 |
上白糖 | 5 | 12.5 |
食塩 | 2 | 5 |
スキムミルク | 2 | 5 |
セミドライイースト金 | 1.2 | 3 |
アルカリイオン水 | 70 | 175 |
無塩バター | 5 | 12.5 |
合計 | 184 | 460 |
~~レシピの意図と注意点~~
発酵オーバーで味が顕著に劣化してしまうので、気をつけてください。
特に、二次発酵の終盤では発酵スピードが通常の水で作るパン以上に早くなっている感覚があります。追加発酵はこまめにチェックしながら慎重に。
~~工程~~
ミキシング
- バター以外の材料をケースに入れ、手動のこねモードで15分ミキシング。
- バターを加えて、再度15分ミキシング。
- 生地を手粉を振った作業台に出して、生地にも軽く手粉を振る。
- 手のひらで生地を押さえて生地をすこし伸ばし、手前1/3、奥1/3を折って三つ折りし、手のひらで押さえる。
- 90度ずらして同じように三つ折りして押さえる。
捏ね上げ温度の目安…27℃
一次発酵・分割丸め・ベンチタイム
- 27℃ 20分の一次発酵。
- 生地を伸ばしつつ三つ折りにするような感じでパンチをする。
- 27℃ 25分の再発酵。
- 二等分にする。
- 生地を丸めて15分のベンチタイムをとる。
成形・二次発酵
- 生地に軽く手粉を振り、手のひらで軽く押さえてガスを抜く。
- めん棒で縦にのばす。
- 裏返して手前1/3を折り、奥も1/3折る。
- 端に出てきたガス溜まり気泡は軽く叩いてつぶしておく。
- 生地の表面にハリが出るように巻いていく。
- 型に詰めて38℃ 35分の二次発酵。
- 10分間発酵室から出して表面をほどよく乾燥させる。このとき生地表面に目立つ薄膜の気泡がある場合は竹串やはさみで潰しておく。特に四隅の気泡に注意!
焼成前加工・焼成
- 天板ごとオーブンを210℃に予熱しておく。
- フタをして190℃ 10分➡210℃ 18分焼成。
- 型ごと落としてショックを与え、熱いうちにケーキクーラーの上にパンを出して粗熱を取る。
検証結果・感想
アルカリイオン水が生地に与える効果は?
極めてオーソドックスな配合の生地なので違いがよくわかりましたが、やっぱり生地は普通の水で作るよりもユルくなります。
これはグルテンの物性がpHによって大きく変わることが影響しています。
生地が酸性になるほどグルテンは締まりが強くなっていき、アルカリ性になるほど締まりが弱くなります。
「パン作りは弱酸性が最適」
とよく言われるのは、程よい締まり具合のおかげで生地が丈夫になりガス保持力が最も高くボリュームあるパンが焼けるからです。
酸性に傾きすぎるとグルテンの柔軟性が欠落し、ブチブチと切れるような生地となってしまいます。
逆にアルカリ性生地のメリットは弾力が弱いおかげで生地伸びが良いことです。
今回のレシピにおいても伸びが良くて弾力もすぐに落ち着く扱いやすい生地だと感じました。
本来であれば基本配合の食パンはベンチタイム20分は欲しいところですが、アルカリ水のレシピなら15分で十分です。
アルカリイオン水が発酵に与える効果
本来、酵母菌は弱酸性の環境で活発に働くものです。なので、アルカリイオン水は酵母菌の活動にふさわしくないというように言われてきました。
しかし、どうやらその限りではないようです。
一次発酵の前半20分はそこまで膨らみはしないのですが、その後からは一気に早くなる印象がありました。
ここからは僕の考察ですが…
パンチをすると生地に酸素が供給されて発酵が早くなるのは当然のこと。
ですがパンチによる酸素供給と同時にグルテンも一緒に強化されて、生地は硬化します。硬い生地は膨らみにくいです(新品の硬くて膨らませにくい風船と同じです)。
しかし、アルカリイオン水の場合はパンチによってグルテンが強化されても、ついたコシがすぐにユルむため、まるで事前に手で伸ばした柔らかい風船のごとく膨らませやすくなるんですよね。
丸め後も、成形後も同様にすぐ弾力が緩んで膨らませやすくなる。
だから、たとえ酵母菌の活動自体は活発にならなくとも、物理的に膨らみやすいという点があるからちゃんと膨らむのではないでしょうか?
蛇足ですが…
酵母で作られるワインだってアルカリ性だよね!って思って調べてみましたけど、ワインそのものは酸性とのこと。ただ、含んでいる栄養素のせいで体内ではアルカリとして働くそうです。
普通の水とは食感が大きく異なる
普通の水で作った同配合の食パンより引きが弱いため歯切れがよく、口溶けが良かったです。
恐らく、アルカリイオン水で仕込んだ生地は、生地の骨格であるグルテンが軟化するので、焼き上がったパンもそのようになるのではないでしょうか?
実際、たんぱく質量の少ない粉でパンを作ると、引きが弱く歯切れが良くなります。
さらに、もっと水の多いの配合で作ったかのようなみずみずしさがあり、内相(パンの中身)もつやつや輝いています。
一度、発酵オーバーでフタが出来ず山食で焼いたのですが、気泡が粗い分その艶やかさが目立ちました。
アルカリイオン水には普通の水よりもでんぷんをα化(糊化)する能力が高いという特徴があるため、焼き上がったパンもでんぷんα化率が高くなる。でんぷんが水分をよく吸ったわけだから、老化が遅くなる。結果、口溶けの良さとしっとり感に良い影響を与えたのでしょう。
まとめ
アルカリイオン水でのパン作りは、素材の風味を存分に活かしながらも、歯切れの良さと口溶け自然な甘みを感じることができる画期的な製法だと感じました。
皆さんもぜひ一度、アルカリイオン水でのパン作りに挑戦してその効果の程を体感してみてください!
以上、アルカリイオン水でつくる基本の食パンの検証レシピ紹介でした!
2023/05/07
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)