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こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
パン作りにおいて、パンがどれだけ膨らむかに影響を与える「ガス保持力」。
ガス保持力についての理解を深めることは、パン作り上達にとても重要です!
今回はガス保持力を左右する要因や高める方法について解説します。
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ガス保持力とは?
ガス保持力とは、その名の通りパン生地がガスを抱え込む能力のことを指します。
ガス保持力が高いほど生地はより大きく膨らむことが出来るため、より少ない生地量でも大きなパンが作れます。
反対に低いほど生地が抱え込めるガス量が少ないため、ボリュームの最大値は低下します。
ガス保持力を把握することが大切な理由
「パンのボリュームが小さくなる」というデメリットに対して、
「だったら最終発酵でいつもより大きめに発酵させればいいんじゃないの?」
という疑問を持つ方も多いかと思います。
しかし実際にはそのようにやっても上手く行かないことが多いのです。
こんな経験ありませんか?
「粉だけ変えて食パンを作ってみたら、窯伸びが悪く思うように膨らまなかった」
「次は最終発酵を長めにして焼いてみたけど、更に窯伸びが悪く全然改善しなかった」
発酵を延長するだけでは大きく膨らませることは出来ないのです。
それはなぜなのか?
どうすればいいのか?
原理はもちろん対処法も、ガス保持力について理解を深めなければ最適解を導き出すことは出来ません。
ガス保持力に影響を与える要因
粉の種類
粉の種類はパン生地のガス保持力に大きな影響を与えます。
一番簡単なところで言うと、グルテン量の多い強力粉はガス保持力が高く、グルテン量の少ない薄力粉はガス保持力が低いです。
もちろん薄力粉だけでも上手に作れば美味しいふわふわパンを作ることは可能ですが、膨らみのマックスがどうしても強力粉より劣ります。
ですがガス保持力に影響を与えるのはグルテン量だけではありません。
でんぷんの質が違うことでも、生地の硬さや伸びの良さなどの質感が全然変わってきます。
特に国産小麦は外国産小麦と比べてでんぷんの質が個性的なので、たとえグルテン量が多い品種であっても上手く配合調整しないと生地伸びが悪く硬い生地になりがちです。
でんぷんについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
こね具合
こね具合が不足しているとガス保持力は弱くなります。
そもそも、なぜ十分なミキシングによってガス保持力が強くなるんでしょうか?
正しいミキシングでは生地に空気が混入します。
グルテンは空気中の酸素と結びつくことでより強く発達します(グルテン酸化)。
グルテン酸化によってグルテン同士の結合がより複雑になり、骨格としての機能が向上することでガス保持力が高まるのです。
(家で例えたら柱と柱をつなぐ"梁(はり)"が増えるイメージです)
日清製粉中央研究所での研究結果によると、酸素が無い空間で小麦粉生地をミキシングしたところ、酸素がある空間では得られる生地の発達が得られなかったとのこと。
これは生地の発達に酸素が重要であることの何よりの証拠です。
例えレシピ通りの捏ね時間で生地を作ったとしても、正しい捏ね方が出来ていなければこね具合は不足し、その分ガス保持力も劣ってしまいます。
製法の違い
同じ材料でも製法が違うとガス保持力に差が出ます。
これは僕の主観ですが、ガス保持力の強さを製法で比較すると
「中種法≧老麺法≧液種法=直捏法>>>湯種法」
このようなイメージになります。
中種法から直捏法までの4つに関しては、上手に作ることができればどれも遜色なく十分ふわふわで大きく膨らむパンが作れますし、逆にうまく扱えていないと例え中種法であってもガス保持力が低下することはあります。
なのであくまで目安としての順番ではありますが、湯種法はいくら上手に作っても左4つの製法にはガス保持力で敵いません。
イーストの種類
意外と知られていないことですが、イーストの種類が違うだけでもガス保持力に差が出ます。
ご家庭でのパン作りでよく使われているインスタントドライイーストのほとんどはビタミンCが添加されています。
ビタミンCは製パンで酸化剤として利用される添加物なのですが、生地に酸素を引き込むことでグルテン酸化を促す効果があります。
グルテン酸化については先述の項目で述べましたが、最近ではビタミンCが添加されていないイーストもご家庭で頻繁に使われている様子が見られます。
生イースト、ドライイースト(予備発酵タイプ)、セミドライイーストはビタミンCが無添加のため、インスタントドライに比べてグルテンはやや弱くなります。
白神こだま酵母やとかち野酵母などもビタミンC無添加ですね。
レシピに「ドライイースト」と書かれている場合、ほとんどはインスタントのことを指して書かれていますが、それを別の種類に変えて作るならガス保持力が少し低下することも視野に入れましょう。
イースト量を換算調整して発酵力を揃えても、同じ生地にはなりません。
加えて、予備発酵が必要なドライイースト(とかち野酵母ドライも含む)は、製品に含まれる死滅酵母から流出するグルタチオンなどの成分が生地を軟化させます。
独自の風味・旨味の元となるので味は良いのですが、生地コシが弱くガス保持力も低下するため注意が必要です。
ガス保持力を低下させる材料
パン作りで使われる食材の中には、生地のガス保持力を低下させてしまう材料もあります。
最もわかりやすいのがくるみやレーズンなどの大物具材ですね。
これらの具材は生地の中に"穴"をあけてそこに居座っているようなものです。
家で例えたら柱材に異物が混入しているようなもので、耐震性に不安がある家です。
また、大きさは小さくともゴマやココアパウダーなどの粉末食材も同じくガス保持力を低下させます。
グルテンを含まない材料が増えるということは、生地全体で見たら相対的にグルテン割合が減っているのと同じだからです。
加えてこちらも意外と知られていない内容ですが、豆乳とココナッツミルクは生地の伸展性を大きく阻害します。
【驚愕の結果】牛乳の代わりに使えない植物性ミルクはどれ!?比較検証してみた - YouTube
発酵具合
生地の発酵が進むと、酵母菌により生成されたアルコールが微量ながら生地内に蓄積されていきます。
アルコールはグルテンを軟化させる効果があります。程よい発酵具合であれば生地の伸展性を向上させる効果としてプラスに働きますが、過剰量だと生地が軟化しすぎてガス保持力は低下します。
また、アルコール云々を抜きにしても発酵オーバーはガス保持力を低下させます。
パン生地は成型作業で圧力が加えられるとグルテンが強化されコシが強くなります。コシが強くなった生地を寝かせると今度はグルテン組織の緊張が緩み生地の伸展性が向上します。
ですが寝かせすぎるとグルテンが弱くなり、ガスを保持する踏ん張りがきかなくなります。
元々グルテン量の少ない粉を使っていたりしてガス保持力が弱い生地を二次発酵の延長で無理やり大きくしようとしても良い結果が得られないのは、発酵オーバーで更にガス保持力が弱まることが大きな要因です。
生地のpH
「弱酸性が最もパン作りに適したpHだ」
というのは聞いた事がある方も多いでしょう。
その理由として語られることが多いのは、酵母菌の活動が活発になるからという理由です。
しかし、それだけではありません。
生地のpHはグルテンの物性にも影響を与えます。
pHが低なるほど、つまり酸性に傾くほどグルテンは硬く締まり、pHが高くアルカリ性に傾くほど緩くなります。
パン作りにおいては弱酸性の状態が程よく締まりのあるグルテンとなり、最もガス保持力が高いとされています。
酸性に傾きすぎると柔軟性が無くなりブチブチと生地切れしてしまいますし、アルカリ性に傾きすぎるとコシが弱すぎて上への膨らみを保持できなくなります。
通常、ごく普通のレシピで生地のpHが狂う事はあまり無いですが、pHが低過ぎる自家製酵母を使ったり、レモンなど強酸性食材を多量に使ったり、そういったことでpHが狂い失敗してしまうケースは見受けられます。
水の硬度
水の硬度も生地の物性に影響を与えます。
文字通り硬水で仕込むとグルテンはミネラルの影響で締まりが強くなります。
一方で軟水だとその効果は得られない為、柔軟性のある生地になります。
とはいえ基本的には硬水はハード系に使うもので、ソフト系のパンに使うのはあまり好まれません。
元々グルテン量が多くコシの強い生地が出来るレシピで硬水を使うと、さらにコシが強くなってしまい作りにくさや膨らみにくさなどのデメリットが目立ってしまいます。
硬水はグルテン量が少ない生地のコシを補う目的で使うことで、程よいガス保持力が得られます。
発酵不足だとガス保持力は高い?低い?
発酵不足の生地が焼成で上手く膨らまない理由は、
- 熱で膨張するガスの量が少ないから
- 生地の柔軟性が不十分で膨らみにくい
この二つが大きいです。
ガス保持力そのものは決して弱くなく、むしろ生地が強すぎるが故に内側から膨らませにくい状態と言えます。
風船で例えると新品で硬く膨らませにくい風船ですね。
ガス保持力が低い?と思ったらやるべき対処法
こね具合は適切かどうか?
使っている材料はレシピ通りで、生地温度もレシピ通り、二次発酵の膨らみ具合もレシピ通りの高さまで発酵させた、それなのに焼成で膨らみが悪かった。
そんなときはこね具合を疑ってみてください。
手ごねはもちろん、ホームベーカリーやニーダーを使って生地作りをしている方も油断しないでください。
というより、それらの機器は基本的にこね不足にしかなりません。
十分なこね具合にまで捏ね上げることが出来るのは、業務用ミキサーやキッチンエイドなどの卓上ミキサーか、正しいコツを踏まえた手ごねだけです。
使っているレシピが元々捏ねない前提であれば捏ねないで良いのですが、しっかり捏ねて作るレシピであればこね不足だと膨らみは劣ってしまいます。
こちらの記事でこね具合の見極め精度を向上させてください。
ココアパウダーや抹茶などのパウダー類を配合するなら…
小麦粉以外の粉物をミキシングの最初から加えると、どんなに良い捏ね方をしていてもなかなかグルテンが繋がってきません。
入れるだけでもガス保持力は低下するのに、良いグルテンが出来ないと更に膨らみが悪くなってしまいます。
それを防ぐためにもパウダー類の後入れを推奨します。
パウダーは事前に半量~同量の水で溶かしてペースト状にしておき、生地が8割程度完成したあたりで加えましょう。
こうすることで、グルテンが繋がりやすいプレーンの状態で良い生地を作ってからパウダーを加えることが出来ます。
他にも中種法で作るという選択肢もアリです。
生地量を増やす
外国産強力粉のレシピを国産小麦に置き換えて作っている場合など何かしらのアレンジを加えている場合、ミキシングや発酵などの工程が完璧に出来ていても、ガス保持力のマックスは劣ってしまいます。
「そういう材料を使っているからこれ以上は膨らまない」と諦めるしかないのですが、角食パンなど膨らみ具合が重要なパン作りではそうもいきませんよね。
「角にしたいのに窯伸びが弱すぎて、上が白い山食になっちゃった」
そんなときは生地量を増やすことで解決しましょう。
製パン技術者向けの本格的な食パンの教本でも、イーストで作るガス保持力の強い生地は1斤あたり440gの生地量ですが、自家製酵母などを使っていてガス保持力の弱い生地は480gを超えているものもあります。
人間で100kgのダンベルを運べる人と運べない人がいるのと同じように、パン生地も440gだけで角食になれる生地となれない生地があります。
生地のガス保持力に合わせた生地量選択はとても重要です。
「この生地に最適な生地量は何グラムだろう?」
と考えるためにも、ガス保持力に影響を与える要因をしっかり把握しておくことが大事です。
まとめ
ガス保持力に影響を与える要因を知っておくことで、オリジナルのアレンジレシピを作る際のイメージ再現度は大幅に上がります!
特に食パンを作る上ではとても重要な知識となりますので、しっかり把握しておきましょう。
2023/05/20
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)