上達するパン作りの「考え方」by BAKE FIRST

知っておくだけでパン作りが上達する「考え方」のコツをご紹介します!

パン作りの水を炭酸水に変えてもパンはふっくらしません!【新事実】

「パン作りで使う水を全て炭酸水に変えることで、簡単にふっくらしたパンが焼きあがる」

こんな情報を見かけました。

それによると、「パンが膨らむのは酵母菌が発する二酸化炭素によるものだから、同じく二酸化炭素がシュワシュワと出てくる炭酸水を使えばパンがよく膨らむ」とのことですが…

これって真偽はどうなんでしょうか?

ホットケーキのように材料を混ぜ合わせたらスグ焼けるようなものならまだしも、パン作りは十数分こねこねして長時間の発酵、さらに分割丸めや成型といったガスを抜く作業もあるわけですから、焼成の頃には炭酸はほとんど抜けきっているような気がしませんか?

今回は、炭酸水でパン作りをすることで得られる効果の真偽について、実際に作って解明していきます。


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炭酸水でパン生地を作ってみたら…思わぬ弊害??

今回は基本的な食パン生地の配合を使って、片方は普通の水道水を使って生地を作り、もう片方はソーダメーカーで水道水に炭酸を入れて作った炭酸水を使用して生地を作りました。

これなら二つの生地の違いは炭酸があるかどうかだけ、水の硬度も同じです。

これで比較の準備は整いました。早速生地を作ってみたら…

ミキシングの段階で既に違いが現れてきました。それもデメリットという形で。

捏ね始めはどんな生地でも基本的にはベチョベチョで千切れやすい、けどよほど水分量が多すぎなければ捏ね進めて3~4分ほどで生地のまとまりに変化が現れてきて、6分後にはそれなりの弾力が出てくるものです。

ですが、炭酸水で作った生地は「そろそろまとまってくるかな~」っていうタイミングでもその気配が無く…

通常より2分ほど長く捏ねたらようやく生地にまとまりがでてきました。

どうやら炭酸水でパン生地を作ると捏ね時間が長く必要となるようです。

その理由については後ほど記述します。

 

水で作ったパンと炭酸水で作ったパン、何が違う?

炭酸水で作ったからといって、パンがふっくら大きくなることはありませんでした。

そして、味も食感もわかるほどの違いは感じられません。

唯一見てわかる違いは内相のキメ細かさです。

普通の水で作ったものはいつも通りのキメ細かさ、それに比べて炭酸水で作ったパンの方がキメが粗かったのです!

「パン作りの水を炭酸水に変えるだけでパンがふっくらする」なんていう情報だけ見てしまうと、ふっくら大きくきめ細かく焼きあがりそうなイメージが想起されますが、全然そんなことなかったということです。

ミキシングでの生地の完成が遅れたことといい、焼き上がりのボリュームは同じくらいなのにキメが粗いことといい、このような違いが現れた原因は何なのでしょう?考察も交えつつ解説していきます。

 

水のpHが変わるとパンが変わる

今回の検証でポイントとなってくるのが水のpHです。

パン作りでは生地のpHが弱酸性だと良い、というのは何となく聞いたことあるでしょうか?

弱酸性の環境で酵母菌はより活発に働く、これはもちろんそうですが、生地の性質としても弱酸性が最もプラスに働くのです。

弱酸性は生地のグルテンが程よく締まり丈夫になるため、ガス保持力が向上しパンのボリュームが増大するのです。

とはいえ酸性に傾きすぎても生地が壊れてしまうし、アルカリ性に傾くと生地のコシが弱くなり強アルカリだと溶けます。

製パンに向くpHはだいたい5.2~5.6だと言われています。

水道水は基本的には中性ですが、一方で今回使った炭酸水のpHは4.5でした。最適なpHに比べたらちょっと低いですね。

まぁ実際には使った水のpHがそのまま生地のpHになるのではなく、他の材料(特に脱脂粉乳などの乳製品)の緩衝作用によって少し中性寄りに変動するのですが。

 

なぜミキシングに時間がかかった?

これは恐らく炭酸水はパン作りで使うにはpHが少し低過ぎたことが原因かと思われます。

低すぎるpHによってグルテンが少し壊された。

けど、それだと一つ疑問が残ります。

「少し長く捏ねたら結局生地完成したよね?」

「なんだったら焼き上がりすこし大きいぐらいにはちゃんとふくらんだよね?」

これは、炭酸水の特性を考えれば納得する答えが出てきました。

炭酸水って強い衝撃を与えると一気に炭酸が抜けますよね?

また、衝撃を与えなくとも時間経過で徐々に炭酸は抜けます。

きっと捏ね始めの最初はまだ炭酸が水に溶け込んでいて、けどしっかり捏ねれば捏ねるほど次第に炭酸は抜けていき、そして時間経過とともにも生地中の炭酸水から炭酸は抜けていく。(あるいは捏ね上げ時点でほとんど抜けたのか?)

炭酸水から炭酸が完全に抜け切っても中性の水にはならないのですが、それでもpHはある程度中性寄りに行き着きます。

この炭酸水のパン生地も、工程が進むにつれてちょっと強めの酸性からちょうどいい弱酸性へと変わっていったのではないでしょうか?

 

そう考えると、ちゃんと同じくらいの膨らみが得られているけど内相が少し粗いのも納得いきます。(捏ね前半でグルテンが少しだけ壊されたけど、残りの健全なグルテンは弱酸性によって強化されたため、少数精鋭みたいな感じで膨らみを補うことができた)

 

パン作りの水を炭酸水に変えるのはやっぱりダメなの?

というわけで、結果的にはパン作りの水を全て炭酸水に変えたところで、簡単にふっくらするわけではありませんでした。

むしろ、簡単どころかちょっと手間が増える結果となりましたね。

ですが、見方を変えればすべての水ではなく一部を炭酸水に変えてちょうどいい弱酸性にしてやれば、すごく良く膨らむパンが作れるということになりそうですね!

モノは使いようとはまさにこのこと。

どれぐらいのブレンドがいいのか?については、実際にやってみないとです。粉によってもレシピによっても変わってくるはずです。

 

以上、パン作りの水を炭酸水に変えると…の真相でした。