こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
食パンやケーキなどで使う型には様々な材質があり、値段もそれぞれ大きく差がありますが、
「実際、材質違うと味も変わるの?」
と気になりませんか?
今回はパン作りやお菓子作りで使う焼き型の材質について、それぞれの特徴やどんな違いが出るのか、実際の検証結果も交えて解説します。
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- 材質の違う型でパンを焼き比べてみた
- なぜ材質が違うと焼き上がりも変わるのか?科学的な理由
- こんなにたくさんある!?型の材質の解説
- 「黒い型はよく焼ける」って本当?その原理とは…
- フッ素加工の型は油要らず?過信するのは危険!
- まとめ
材質の違う型でパンを焼き比べてみた
まず最初にこちらの画像をご覧ください。
材質の違いが焼き上がりにどれだけの影響を与えるのかがお分かりいただけるはずです。
左が鉄+フッ素樹脂加工のパウンド型で焼いたパン。
右がステンレスのパウンド型で焼いたパン。
配合や焼成温度・時間などは全て同じです。
型と接していない頭の部分は同じ焼き色ですが、接している側面部は大きな違いがありますね。
この焼き色の差がパンの味わいにも大きな影響を与えます。
焼き色の差で変わるパンのクオリティ
そもそも焼き色というのはどのような化学反応で発生するのかご存じでしょうか?
生地内にある糖とアミノ酸が結合し、褐色物質と各種香り成分を生成する「メイラード反応」によるものです。
メイラード反応は常温でも進む化学反応ですが、加熱による高温で進みがとても早くなります。パン以外にもステーキの焼き目など、あらゆる食材の焼き色の元となっています。
そして焼き立てパンの香ばしさも、メイラード反応によって生成される香り成分が元となっています。
つまり、しっかり焼き色が付いていればその分香ばしく焼きあがっているということ。
さらにパンのクラスト(表皮)で生成された香りはクラム(中身)に吸われて定着するため、外側のみならず内側の風味にも影響を及ぼします。
焼き色を付けない「白パン」の風味は何由来?
ハイジの白パンなど焼き色を付けないパンの香りは、素材が持つ本来の風味と発酵風味です。メイラード反応による香り成分は含まれていません。
そのため全く同じ生地でも、焼き色に差があるだけで味わいまで大きく変わってしまいます。
なぜ材質が違うと焼き上がりも変わるのか?科学的な理由
それは型の材質によって「熱伝導率」が異なるからです。
皆さんが料理でフライパンを使って何かを焼く時、使うフライパンを変えたら焼き具合が変わった経験ありませんか?
あれはフライパンの厚さの違いによる差だけでなく、材質の違いによる差でもあります。
そしてこの原理はパンやケーキの焼き型でも現れます。
以下に焼き型の材質とその特徴について、熱伝導率に焦点を当てて解説していきます。
自分がどんなパンやケーキを焼きたいのか考慮しながら、型選びの参考にしてください。
こんなにたくさんある!?型の材質の解説
熱伝導の王様「アルミ」
アルミは熱伝導率が「200W/m・K」と非常に高い素材です。
素早く均一に熱を伝えられるため、加熱時間が短く焼きムラも少ない型と言えるでしょう。
さらにアルミは比熱が高いことも特徴です。
簡単に言うと温まりやすく冷めにくい性質で、熱を保持しやすいです。
加えて軽量のため作業における取り回しがラクであることも大きなメリットです。
デメリットは傷がつきやすく錆びやすいことです。
使用後の念入りな手入れが重要です。
パンの焼き型ではほとんど見られませんが、シフォンケーキ型ではよく見られる素材です。
アルミの欠点を克服「アルブリット」とは?
アルミにフッ素樹脂加工を施した素材です。
アルミの高い熱伝導率とフッ素加工による型離れの良さやサビ防止を実現した、非常に使いやすい型です。
パンの型ではあまり見られませんが、パウンド型やタルト型などではよく見られる素材です。
パウンド型でお馴染み「鉄+フッ素加工」
鉄は熱伝導率が「80.3W/m・K」と比較的高い素材です。その上とても丈夫なので強い衝撃などにも強いです。
その代わりサビに弱く型離れも良くないというデメリットがあります。
そのデメリットを補うのがフッ素樹脂加工です。
鉄にフッ素樹脂加工を施すことによって、鉄のメリットを活かしつつデメリットを解消することが出来ます。
なのでこの材質の型は、生地に対して素早く均一に熱を与えることが出来ると言えるでしょう。
フッ素樹脂の熱伝導率は「0.5W/m・K」と非常に低いですが、鉄の表面に薄くコーティングするだけなのでパンやケーキを焼くにあたって支障はありません。ほんの少しだけ熱伝導率が低下するくらいです。
食パン型の王道「アルタイト」とは?
食パン型で最も多く見られる素材「アルタイト」は、鉄をアルミでコーティングしたものです。
鉄の熱伝導率が80.3W/m・Kで、アルミが200W/m・Kですから、加熱効率はかなり良いと言えます。
使い始める前に空焼きなど事前準備が必要ではありますが、上手に空焼きをすることで型離れは良くなります。
また、アルミコーティングに油が馴染むほど型離れは更に良くなるので、使い込むほど育っていく材質の型とも言えるでしょう。
ただし鉄が主なので決して錆に強いわけではないため、使用後の手入れが必要です。水に漬け置きしておくことも出来ません。
なぜ食パン型はアルタイトが多いの?
食パンは焼きあがった直後に、型ごと高い位置から落として強いショックを与えます。
これはパンの腰折れ防止に必要な工程なのですが、この強い衝撃にも耐えられるのが鉄を主とするアルタイトだということです。
鉄より熱伝導率が高いアルミニウムを食パン型にしてしまうと、このショックを与える工程で型が凹んでしまう恐れがあります。
しっかり焼ける熱伝導と業務における取り回しに耐えうる丈夫さ、これらを併せ持った素材がアルタイトだから必然的に多く作られているのでしょう。
アルスターとの違いは?
アルスターはアルタイトと呼び方が異なるだけで素材は同じものです。
アルタイトの最上級品!?「プロアスター」とは?
アルタイトの型にフッ素樹脂加工を施したものが「プロアスター」と呼ばれます。
アルタイトのデメリットとも言える空焼きの必要性が無く、型離れも改善されています。またコーティングによりサビも防止されているため、手入れの手間もかなり減ります。
値段は高くなりますが、忙しいプロの現場において余計な手間を省くことが出来るため重宝されています。
複雑な形状の型が多い「ブリキ」
鋼(はがね)をスズでメッキしたのが「ブリキ」です。
鋼は鉄に炭素などを微量混ぜ込んだ素材で熱伝導率は「51.6W/m・K」。
鉄よりも強度と粘り強さがあり、加工性に優れています。
スズの熱伝導率は「66.8W/m・K」で、鉄よりも錆びにくいのが特徴。
熱伝導率はアルミや鉄に比べると低いですが、それでも高い水準のため均一で綺麗な焼き色に仕上がると言えるでしょう。
またアルミやシリコンなど他の型よりも値段が安いのもメリット。
スズメッキにより通常錆びにくくはなっていますが、少しでも鋼が露出するとそこから錆びが進行します。加えて水分に弱いため、使用後の手入れや保管場所などに注意が必要です。
また、鋼の加工性の良さを活かしてマドレーヌ型など複雑で細かな焼き型が多く見られます。他にもパウンド型やスポンジ型など様々なタイプに使われています。
百均でお馴染み「ステンレス」
セリアで購入できるパウンド型などでお馴染みの「ステンレス」は、鉄にクロムやニッケルを混合した素材です。
その名の通り錆びないこと、また価格も安いのがメリットです。
デメリットは熱伝導率が低いことで、ステンレスの種類によって上下しますが概ね「16.3~26.4W/m・K」と、鉄やブリキなどに比べて低水準です。
「黒い型はよく焼ける」って本当?その原理とは…
近年プロベーカーの間で流行しているのが黒い塗装が施された食パン型です。
通常のシルバーの型に比べて熱吸収効率が良いため、火通りが良いと言われています。
では、なぜ黒い型は熱吸収が良いのでしょうか?
「黒は光を吸収する色だとはよく聞くけど…熱も吸収するの?」
そう疑問に思う方も多いはず。
オーブンがパンを温めるのは赤外線による効果です。
実を言うと、赤外線も目に見える光(可視光線)も周波数が異なるだけで同じ「電磁波」の類なのです。
そして光の色も周波数の違いによって緑や赤などの違いが生まれます。
どの周波数の電磁波を反射するのか、その違いが物体の「色」として見えます。
黒い物体は色のある物体に比べて、より広い周波数帯の電磁波を吸収する。それが赤外線の吸収効率に繋がり、結果的に熱吸収が良いというわけです。
フッ素加工の型は油要らず?過信するのは危険!
フッ素樹脂加工によって型離れは良くなっていますが、それでも油は使用することをオススメします。
加工があってもくっつくときはくっつきます。
また表面に見えないキズがつくだけでも型離れは悪化します。使い込むほど劣化していく半消耗品と捉えた方がいいでしょう。
一度くっついてしまうとそれを剥がすために型を擦ることになり、その行為が更に型離れを悪くしてしまう悪循環に陥ります。
少しでも長持ちさせるためにも油を使用した上で生地を入れましょう。
まとめ
焼き型の材質はパンの仕上がりに大きな影響を与えます。
使用する材質が違うだけで同じレシピでも味が変わるということは、材料の配合や選定と同じくらい重要とも言えます。
型の特徴を知って、理想のパン作りを探求してみてください♪
2023/07/07
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)