こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
フランスパンなどハード系のパンを作る際に必要となってくる準強力粉ですが、なかなか近所のスーパーなどでは入手出来ませんよね。
そこで今回は、スーパーで買える強力粉・薄力粉・中力粉で準強力粉の代用は出来るのかどうか、そして代用する際の割合について解説します。
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準強力粉の代用が出来る粉はどれ?
- 強力粉
- 中力粉
- 薄力粉
スーパーで手軽に入手できる小麦粉と言えばこの3種類でしょうか。
結論から言うと、強力粉・薄力粉の2点を使って代用することをオススメします。
「中力粉は準強力粉とほぼ同じたんぱく量だから、単体で代用が可能」
という解説をしているサイトなどよく見かけますが、これはむしろオススメ出来ません。
なぜなら中力粉の多くは「うどん用」にチューニングされた粉である傾向が強いからです。
中力粉でパンを作ってしまうとどうなる…?
「強力粉・中力粉・薄力粉の分類の違いはたんぱく量だけだ」という先入観をまず捨てましょう。
一般的にスーパーで売られている外国産のこれら小麦粉は、製粉会社がそれぞれの用途に合わせてあらゆる小麦をブレンドして一つの商品にしています。
強力粉なら主にパンを美味しく焼けるように、薄力粉なら主に焼き菓子を美味しく焼けるように…
中力粉はうどんに用いられることが多いため、やはりうどんを美味しく作れるように調整されています。
上の動画では「うどん粉」として謳われている商品でパンを焼いた結果ですが、たんぱく量だけでは予測することの出来ない質感の違いが小麦粉にはあるということはお分かりいただけるかと思います。
もちろん銘柄によっては美味しいパンが焼ける中力粉もあるかもしれません。
ですが傾向として
- モチモチしっとり
- 焼成風味が弱い
- 焼き色が薄い
といった印象があります。
一方で準強力粉はハード系を美味しく焼けるようにチューニングされているため、
- エアリーでサクっと
- 焼成風味が香ばしい
- 焼き色もしっかり付く
という具合に、うどんに適した中力粉とはまるで正反対と言えます。
強力粉と薄力粉で代用した場合の違い
強力粉と薄力粉での代用なら、それぞれの使用割合を細かく計算することであらゆる準強力粉からの代用に対応できます。
しかし、上記のように小麦粉の特性はたんぱく量だけでは決まりません。
割合を計算してたんぱく量を合わせても、再現できるのは食感(歯切れの良し悪し)くらいです。
準強力粉を強力粉と薄力粉で代用した場合、
- 小麦の風味に劣る
- 熟成が進みにくい
この2点の違いが出てきます。
小麦の風味が劣る理由
準強力粉はそれ単体でもハード系のパンが美味しく焼けるように製粉されています。
つまり、小麦の香りがしっかり出るように設計されているということ。
小麦の香りが強い粉というのは、小麦粒の外側に近い部分をより多く含むものです。内側の部分ほど色が白く穀物臭が少ないです。
ですが強力粉や薄力粉はそもそもハード系のパンではなく食パンや焼き菓子での用途として設計されているので、小麦の香りよりも工場での使いやすさに重きを置かれています。
熟成が進みにくいとはどういうこと?
パン作りにおける「熟成」とは、酵母菌による発酵と同時に進むもう一つの化学変化のことを指します。
パン生地内に含まれる様々な酵素が粉のでんぷんやたんぱく質を分解して、麦芽糖やアミノ酸が生成される働きです。
特に砂糖を加えず作るハード系のパンだと、発酵に必要な糖分を得るために、でんぷんを麦芽糖に分解する熟成作用が必要不可欠です。
酵素は小麦粉に元々入っているのですが、一般的な強力粉や薄力粉には残存する酵素量が少ないのです。
ですが準強力粉は熟成も進みやすいよう、酵素がなるべく残存するような製粉の仕方がされていたり、粉末麦芽が添加されていたりします。
なので、代用する場合はこのあたりの欠点を補った方がより近いものが作れるでしょう。
強力粉と薄力粉で代用する時、割合はどうする?
「準強力粉は強力粉と薄力粉を8:2で代用できる」とか「7:3の方がいい」とか…
色々言われていますが、どれが正解かというと…
どの準強力粉の代用をしたいのかによります。
準強力粉と一言で言っても色々な銘柄があります。それぞれたんぱく量は全然違います。
「フランス」と「メルベイユ」ではたんぱく量は12%と10%、2%も差があります。これらを同じスペックの粉として考える事自体がおかしな話です。
(もちろんたんぱく量が多いからといってグルテンが多いわけではないです)
以下に詳細な割合の計算方法をお伝えしますが、難しいことは考えたくない人はとりあえず8:2か7:3どちらが良いか、試作して決めると良いでしょう。
準強力粉を代用するための計算手順
一言で準強力粉と言っても、その種類はたくさんあります。
一般的なものはリスドォルですが、メルベイユ・フランス・タイプERなど…それぞれで特色が異なります。
強力粉と薄力粉でブレンドする際は、風味や色味の再現は出来ないけれど、たんぱく量だけでも計算で合わせて食感を再現することは出来ます。
たんぱく量が違ってしまうと生地の吸水能力も変わってくるので、上手に代用したいならしっかり計算しておきたいところです。
ここから順を追って計算方法を見ていきましょう。
本来使うべき準強力粉のたんぱく量はいくつ?
ここでは例題として「リスドォル」を使って計算を解説します。
リスドォルのたんぱく量は10.7%。
このたんぱく量になるよう計算していきます。
※ちなみにメルベイユは10%、フランスは12%とかなり差があります。たんぱく量≠グルテン量ではありますが、ここの見落としで粉が変わると上手く作れないと感じる人が多いです。
代用に使う強力粉と薄力粉のたんぱく量を確認する
ここではカメリヤとバイオレットを使った代用を例に計算してみましょう。
カメリヤ…11.8%
バイオレット…7.8%
これらをどんな割合でブレンドすればリスドォルと同じ10.7%になるでしょうか?
同じたんぱく量になるよう計算する
とりあえず代入
現段階ではカメリヤの使用量もバイオレットの使用量もわかりません。
ですが、それぞれの合計量がリスドォルと同じであることはハッキリしていますね。
なので、リスドォルが10割つまり1とすると
- カメリヤ…α
- バイオレット…(1-α)
このようになります。
(例えばカメリヤが7割だとα=0.7、(1-α)=0.3といった具合に、割合を表すことができます)
イコールでつなぐ
リスドォル…10.7%
カメリヤ…11.8%
バイオレット…7.8%
だったので、
11.8×α+7.8×(1-α)=10.7
11.8α+7.8-7.8α=10.7
11.8α-7.8α=10.7-7.8
4α=2.9
α=0.725
これがカメリヤの割合ですね。
バイオレットは1-αなので1-0.725=0.275
これで、カメリヤ72.5%+バイオレット27.5%でブレンドすれば、リスドォルと同じたんぱく量になることがわかりました!
一般的に言われている「8:2」だと誤差がある?
もし今回のようにカメリヤとバイオレットでリスドォルを代用するパターンにおいて、通説で言われている8:2ブレンドで代用してしまうと、
11.8×0.8+7.8×0.2=11
たんぱく量は11%となってしまい、リスドォルよりも0.3多くなってしまいますね。
もし、リスドォルではなくてメルベイユを8:2ブレンドで代用したとしたら。1.0%も違うことになります。
小麦粉に含まれるたんぱく質はグルテニン&グリアジン以外にも含まれているので、必ずしもたんぱく量イコールグルテン量ではありませんが、1%の違いは吸水能力や生地感においてかなりの差が出てしまいます。
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2023/04/05
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)